第6話 中山 1

 保証会社を立ち上げて一年ほど経ったある日、借り入れ申し込みの客が来店した。まぁいつものように免許証を預かり、裏へ持って行き問い合わせを俺がするのだが、その間はお客さんに申込用紙を書いてもらうようにした。




 名は中山。歳は40歳。嫁も子供もいる。申込金額は50万。自宅が郡部の市営住宅ってのが少々気になる。土地柄、あまりいい思い出の無い地域だ。仕事はメンズというかスナックを営んでる。見た目は某世紀末マンガのザコキャラのようにモヒカンなのだが、なんとなく若く見える。人に会う職業に就いてる人は総じて若々しく見える。まぁ俺調べだが・・・。




 申し込み用紙が一通り書き終わったと事務員さんが裏に持ってきた。借り入れを見る限り、ちょっと変だな。月払いが無い。日払いの店名しか書いてないのである。件数も5件で金額もそこそこ。こういった場合はだいたいが整理してる、もしくはトバしてる可能性が高い。まぁどっちでもいいけど。




 問い合わせをする場合、何を置いてもまずは本店の西島さんへ電話をする。当然のように俺と西島さんの感じ方は違うのだが、先に付き合いがある方がどういった考えで貸してるのかを聞くためである。もちろんそれに異論を挟む気はないが、ここで絶対やってはいけない事が、同意を求める事である。あくまで自分の考えに基づき、融資をしなければならない。これは社長からも口を酸っぱくして言われてる事である。




 西島さんに電話をして中山の事を聞くと、




「付き合い自体はまだ半年ってとこだが、胡散臭い感じがする。6年ほど前、大々的に整理してるわ。その後貸金業協会から貸禁が出てるしな。貸禁願いが出てる日付を見る限り、期限は切れてるから貸してもいいんだが、気になるのが登録されてる店名と今の店名が違う。今の店名は【ジャスティス】。信用情報上は【シャーロック】って店名なんだわ。そんな事もあってウチはそこまで大きくいってない。2本(20万)なんだが、他では5本ってとこもあるな。一応知る限りでは全部単品。それとウチは集金に行ってる。」




 一通りの情報を聞けたので、俺はありがとうございましたと伝えて電話を切った。少し考えて裏からのそっと出ていき、中山の前に座った。




「この度はお申込みありがとうございます。それで審査の結果なのですが、今回が初めてのお付き合いとなりますので、10万円からのスタートとなります。もちろんダメだと言うのなら、断って頂いても問題ありません。いかがなさいますか?」




 お願いしますと頭を下げる中山に対して、俺は次の話に進んだ。




「ご融資にあたっての事ですが、保証会社への加入が義務付けられます。保証会社の承諾を頂かなければなりません。そこでこちらの保証会社の申込用紙にご記入願えますか?出来上がり次第、FAXしますので。」




 保証会社用の申込用紙を差し出すと、中山は淡々と書きこんで行った。ちなみに我が社は新規5%、再度貸付4%、書き換え3%の保証料である。まぁ高いか安いかはようわからん。この保証料を決めるのにも、参加する会社で激論が交わされたのである。10~8%を主張する会社、オール10%を主張する会社、5~3%を主張する会社とまぁいろいろ。保証料が高ければプール金は早く貯まるが、客足は遠のく。逆に低ければ客は来るかもしれないが、プール金が貯まるのは遅い。社長は他店との協調しようと一緒の保証料にしようとしたが、結局は10%以下ならいくらでもいいんじゃねっって感じで収まったみたいだ。ウチは広く浅くがモットーなんで、5%、4%、3%になったのである。もっとも他所ではオール10%ってとこもあるのだが、それは各々が考える事だからいいか。




 中山が申し込み用紙を書き終えたので、俺はそれをFAXで流した。流し終えると、ものの数十秒ほどで保証会社から折り返しの電話が来た。




「いつもお世話になっております。中山様はいらっしゃいますでしょうか?」




 その声に俺ははいと答え、中山に受話器を渡した。まぁ本人確認だけなので、そこまで手間が係るわけではない。一通りの質問が終わるとまた俺に電話を代わり、




「承諾致しましたので、承諾番号は【12345】となります。ありがとうございました。」




 そう言って電話は切れた。俺は保証会社から聞いた承諾番号を申込用紙に書き込み、中山にこれからしてもらわなければならない事を説明した。




「保証会社から承諾を頂いたので、保証料を振り込まなければなりません。ここを出てすぐ目の前にある銀行のATMで振り込むと手数料が掛かりませんので。保証料は新規扱いは5%ですので5000円となります。振り込んだ後、必ず振り込んだ明細をお持ちください。また振り込みカードを作っておくと後々便利ですよ。」




 俺はそう言って、振り込み先をコピーしてある紙を中山に渡した。中山は早速会社を出て振り込みに行った。中山が帰ってくるまでしばしの休息である。

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