第7話 中山 2

 ものの10分ほどで中山が振り込みから帰ってきた。よく銀行内ATMに入れたもんだと感心してしまった。普通に考えれば、某世紀末マンガに出てきそうなモヒカン野郎が銀行内に入ると、警備員らが取り囲みそうなもんなのだが。




 手続きに入り、書類を並べていった。保証会社への加入の書類、個人情報保護の書類、支払い予定履歴の書類、借用書、貸付伝票と。いちいち説明していくのはしんどいが、新規のお客さんには否が応でも付き合ってもらわないといけない。もっとも説明をしたと言っても説明されてないと言われるのが常ですが。そういう事態の時の為に、書類って大事なんですよ。




 説明しているのだが、中山は目先のお金が欲しいのか、めんどくさそうにうんうんと頷くだけであった。さっさとお金を借りて帰りたいのだろう。客のほぼ全員がそうなのだから、俺も中山に対してしっかり聞くように、などという小言は言うつもりもない。中山は説明も上の空で俺の指示通り、淡々と書類に住所と名前を書き込んでいった。書き終わると大きなため息をつき、




「最近は書類も多くなって、難しくなってきてますねぇ。」




 難しくしてくる側の人間に言われたくはないのだが、しかしそこは客商売。




「そうですねぇ。時代の流れでしょうかねぇ。」




 フフッっと笑う中山にイラっとした俺。さっさとお金渡して帰ってもらおうと考え、生暖かい笑顔を浮かべつつ、事務員さんに目で合図をして現金を出してもらった。




「ではこれから合鍵を作って来て頂けますか。お店の方に集金に伺いますのでお店の中で一ヶ所、置き場所を作ってください。他のトコもそういった集金の仕方をしてると思いますんで、よろしくお願いします。」




 本店で集金行ってるのだから、一緒に拾ってもらえば楽だしね。集金業務に関しては基本本店に丸投げである。支店ゆえにそこまで人員がいないからってのもあるんだけど。将来的には被ってないトコは自分トコでまかなえるようにはしていきたいのだが、まだ今の貸付残高ではなかなかというとこである。他人にあまり仕事を教えた経験もないのだが、客の数が多くなってきたのなら社長に頼んでみようとは思う。




 一旦中山に合鍵を作らす為、外へ出した。30分もすれば合鍵を作って持ってくるだろう。その間に俺はファイルに書類を詰めて仕舞った。特に気にかかる所はないのだが、しいて挙げるなら信用情報の事くらいだ。貸禁願いというものは一回整理したから身内が出すって事は少ない。何回か整理を繰り返した挙句というのが大半のケースだが、おそらく中山も何回かやらかしてきたのだろう。事業癖があるのかもなぁ。そうなるとあまり身内はアテに出来ない事が多い。あくまで想像だが経験上、何回か整理してってのは事業の失敗を意味する。それでも離婚せずに嫁がいるという事は、嫁もそれなりに関係してきたケースが多い。つまり、嫁の身内からもお金を引っ張ってるのではないかと推察出来る。こりゃ身内以外の保証人を考えとかなきゃならんな。




 そんな事を考えてると事務員さんがコーヒーを淹れてくれた。なんせ最近は機嫌がよろしい。先日ついに彼氏からプロポーズをされたという報せを受けた。喜ばしい事だ。もちろん答えはイエス。何回か会った事もあるが、まぁ筋肉好きの筋トレ好きな好青年である。ちょっとお金にはルーズっぽいが、事務員さんなら大丈夫だろう。こういった仕事に就いてた女性は、総じて財布のひもが固い。安心して尻に敷かれろ。




 コーヒーをすすりながら、事務員さんの今後の予定を聞いてると中山が帰ってきた。合鍵を受け取り、店の見取り図を簡単に書いてもらい、集金の為の置き場所を定めた。




「では、こちら10万円のご融資となります。明日から集金に伺いますので、前日、もしくは朝の内に置き場所に置いといてください。もし置くのを忘れた、もしくはお金が無いので指定の時間までに置けない場合、必ずこちらに連絡をください。その時はこちらに持って来て頂く事になりますが、それも17時までとなっております。また、その17時を過ぎる場合も連絡をください。もし連絡無しに集金をトバしたり、持って行くと連絡をしても、その後何の連絡も無しに17時を過ぎたりしますと、一括で全額お支払いして頂きますので、お気を付けください。何かご質問はありますか?」




「あのぉ・・・、どうして10万円なのですか?総額ではまだそんなに借りていないと思いますけど・・・。」




 こういった考えを持ってる債権者は多い。自分はそこまで借りてないのに、どうして貸してくれないのか?その理由は至極簡単なのだが、それを理解出来てない人が多い。中山の前に座る俺は一度居住まいを正し、その理由をおもむろに語った。








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