第13話 中山 8

 中山の店を後にした俺は、そのまま家に帰った。行きたい店があるってのも嘘だし、知り合いが着いたってメールがあったのも嘘。めんどくさそうだからさっさと逃げたと言う方が正しいかもしれないな。まぁ後々友人が何かトラブルを起こしても、俺はそこにいなかったという為の方便だ。まぁ翌日にでも何か知らせてくるだろう。




 翌日休日だった俺は、起きてからいつものようにパチンコ屋に向かった。ダラダラと打っていると、昼過ぎに昨日一緒に飲みに行った友人から電話があった。




「助けてくれ!嫁が実家に子供を連れて帰っちまった!」




「お前、あの後どうなったんだ?」




 なんとなく言いにくそうな感じは声のトーンでわかったのだが、少しバツが悪そうに語りだした。




「お前が帰った後、夜中の2時くらいまで飲んで店出たのよ。家に帰ったら実家へ帰るって書き置きがあって・・・。」




「ふむ・・・。もう一回聞くぞ。あの後どうなった?ホントに飲んで終わったのか?嘘をつくのは勝手だが、それだと信用も何もかも吹っ飛ぶぞ。」




 しばらく間を置いて友人は、




「実は夜中の2時くらいに帰ったんだが、女の子も一緒に出てね。俺の隣に座ってた子が家の方向が同じだから、一緒に乗ったのよ。そしたらどっかで休んでいこうって言いだして、そのままホテルに行っちゃって。結局家帰ったのは昼過ぎだったのよ。そしたら書き置きがあったという・・・。」




「アホか・・・。俺にはどうにも出来んよ。実家へ追いかけるくらいしかなかろう。しかし、アホ極まりないな。浮気がバレて俺に相談して、謝ってみると言った当日に浮気するかね?俺今はパチンコで忙しいから、切るね。まぁ頑張れや。」




 お、おいと話しかけてた友人からの電話をさっさと切って、俺はパチンコに戻った。中山はこの事をそのうち知るだろうから、めんどくさい事にならなきゃいいんだけどね。まぁ俺には何の被害も出ないだろうが、中山がこの件で友人に何か言ってきたら、話さないかんかな。俺の友人ってのはわかってるから、そこまでのムチャはしないとは思うんだけど。まぁ嫁さんにバラされたくなけりゃってトコかなぁ。まぁ何か言ってきたら報告あるやろ。もっともそれで友人がどうなろうが知ったこっちゃないが、自業自得としか言えんから頑張って貰おう。




 週が明けての月曜日、いつものように出社した俺は、これまたいつのように仕事に精を出していた。そんな中、中山から今日は店頭へ持って行くという電話があった。その知らせを事務員さんから聞いて、チッと舌打ちをして集金に回っている女の子に電話を掛けた。




「お疲れ様。中山がこっちに持ってくるって言ってるから飛ばしといて。本店は集金?」




「さっき電話があって、飛ばしといてって連絡あったよ。」




 俺はわかったと言って電話を切った。ウチだけではないようだな。って事は中山は先日の事がまだ耳に入ってないのかもね。そんな事を考えながら俺は電話を取り、本店の西島さんに連絡を入れた。




「お疲れ様です。中山の事でちょっと報告ですが・・・。」




 俺は週末にあった事を包み隠さず報告した。ホーレンソーの出来るワイってなんか素敵。




「ふむ、まぁ行ったのは不可抗力だからいいとして、その友人とやらはちょっとどうなるかわからんな。一応注意しとけって言っといた方がいいかもな。かといって、中山との関係を知らすってのもなぁ。まぁその辺はうまい事言っとけ。それとちょっと小耳に挟んだんだが、中山はだいぶきな臭くなってきてるみたいだからな。次はしっかりした保証を括った方がえぇやろ。」




 わかりましたと応じて電話を切った。それからしばらくして、中山がニヤニヤした顔で支払いに来た。




「店長、週末はありがとね。ボトルまでおろしてもらって。また飲みに来てや。」




 こいつのちょっと馴れ馴れしいトコはあまり好きにはなれんが、まぁお客様だ。




「なかなかおもしろいお店やんか。友人に連れて行ってもらっただけなんだけど、あんな楽しいお店ってなかなかないね。繁盛してるみたいだし、えぇ事やね。」




「そやろ?だからさ、増額してくんない?あの店の繁盛具合を見てくれたらわかってくれると思うし、夜中はもっと繁盛してるからね。」




 あーやっぱそう来たか。こいつには社交辞令だの何だのは通用せんのか。呆れている事を表情には微塵も出さずに、




「んじゃ審査してみるから、30分くらいしたら電話してや。コンピューターにお伺いを立ててみないといけないから。」




「うーん、やっぱいいや。もうちょい払ってからにする・・・。」




 それが賢明だ。もっとも第三者つくまではするつもりないけど。ヘタに審査かけたら藪蛇と思ったんだろうな。肩を落として中山は帰っていった。




 その後事務員さんに何があったかと聞かれ、あった事を説明したりもしたが、どの辺まで切羽詰まってるのか、一回調べとく必要があるかもねと思いながら仕事に戻った。




 もちろん仕事終わりには、友人に一言注意する事も忘れずに・・・。












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