街金じょにーさんの憂鬱
じょにーさん
第1話 始まりの始まり
支店を任されて早半年。当初の目標であった貸付残高5本(5000万)にはわずかに届かなかったものの、4本後半に達した事に社長は満足してくれてた。
「最初は発破かけるつもりで言ったんだが、4本まで伸ばしてきたってのはちょっと驚いたな。おかげで金足りなくなるんじゃないかと心配したわ。」
笑いながらそう話す社長に対して、俺は恐縮することしきりであった。本店の店長である西島さんも満足そうに目を細めていた。
「どうなるもんかと心配したが、いらん心配やったな。」
その言葉に俺はうれしくなり、
「これも社長や西島さんの指導のおかげです。早く本店に追いつけるように精進します。これからもよろしくお願いします。」
この半年の間、本店には3人ほどの新入社員が入ってきたが、どれも一ヶ月以内に辞めていってる。そこまで指導が厳しいとも思えんけど、当然のように俺との感じ方は違うだろう。まぁ勘違いしてたヤツもいたけどね。
続かない理由は様々だとは思うが、たぶん外から見るのと中から見るのとでは全然違ったのではないかと思う。TVや映画でよく観るのはオドレスドレと凄めば、だいたい払ってくれるシーンが多い。実際は全然違う。凄んだトコでない袖は振れないのである。そのない袖をいかに振らすかってのが俺たちの仕事だが、簡単には振ってくれるものではない。無いものは無いから。それに凄めばすぐに警察が飛んでくる。そんなものに時間取られるほどアホらしい事はない。さっさと済ましたいトコだが、警察絡んでくるとめんどくさい。あくまで穏便に話をしているという姿勢を見せなくてはならない。たまに国家権力へ楯突いてるアホを見掛けるが、まぁあまりオススメは出来ないかな。
切り取りに行っても現金になる事はまぁ少ない。切り取りに行くという事は支払いに来てない事である。支払いに来てないなら取り立てに行かなくてはならない。支払うお金無いんだから、当然のように全額支払うなんて不可能である。そういう時はだいたい保証人を付ける。ただの保証人ではない。連帯保証人である。借主が逃げてる場合も多い。そういった場合は連帯保証人に全て被ってもらう。が、その連帯保証人も自分に責任がある事を認めない。そりゃそうだ。誰だって自分が使ってもいないお金を肩代わりなんかしたくない。もっともそんな道理は通じないんだけどね。頭の悪い人には連帯保証人とはどういうものか?から説明しなければならないので、これはこれで少々めんどくさい。そしてその連帯保証人にも連帯保証人を付けてもらう。最終的には借主と全く面識のない人が被ってしまう事も多い。
辞めていったヤツは自分の思っていた世界と現実があまりにも乖離してたからだろう。現実は恐ろしく地味である。また頭ではわかってはいても話術が伴ってないと、当然のように相手を動かす事は出来ない。俺もそこそこ人見知りな方なのだが、仕事だからそうも言ってられない。借主なり連帯保証人なりを自分から動いて貰わないと、前は開いていかない。メールなどの文字にしたらそこそこ自己表現も出来るのだろうけど、面と向かって物申す時は、なかなかそうもいかないのが現代の若者像なのだろう。レッテルを貼ってはいけないのだが、あまりにも話が出来ないヤツを見てると、どうしてもそういう穿った見方をしてしまうものである。
いきなり現場にってのはいかがなもんかという批判もあろうかと思うが、現状どうしても早く戦力になって貰わないといけない、こちらの事情というものもある。動くのは俺と西島さんしかいない。今はまだアサヒクレジット(支店)の方がそこまで込み入った管理がないので、ヤマダファイナンス(本店)の方に手伝いへ行けるのだが、この先どうなるかわかったもんではない。とりあえず集金だけでもやってくれたらいいと、俺が丁稚の頃よりは遥かにハードルを下げまくってはいるらしいのだが、それすらもままならないみたいだ。
紆余曲折ありながらも仕事をこなしていくしかないのだが、さすがに支店の仕事を終わらせてから本店の援軍に行くのはちょっと堪えだした。俺も歳を取った事を実感じだした今日この頃である。ただ単に運動不足なだけな説もあるのだが、まぁ機会を見て考えてみようかとは思う。飲みに行く体力はまぁまぁあるんだけどねぇ。これはやはり俺がおじさん化したからだろうか?
今日も今日とて、客は来る。さて明日はどんな客が来るのだろう・・・。
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