第10話 中山 5

 中山夫婦は30分ほどして出てきた。嫁の雰囲気としては、まぁ可もなく不可もなくってとこだろうか。あまり自分というものを表に出さないって感じがした。よく言えばダンナを立てる妻。悪く言えば自分が無いってとこか。




 2人を座らせてとりあえず免許証を預からせてもらい、こちらが聞きたい事を聞いて、赤ペンで中山の申し込み用紙に書き込んでいった。旧姓は浜岡、実家があり両親健在、そこに兄夫婦が一緒に住んでいる。いざ借り入れは?と聞いてみると、電話で言ってた通り無いという。まぁ中山の入れ知恵だろうけど、そんな事をしても無駄だと気付かんのかねぇ。




 よく考え違いをしてる人が多いから説明しておくけど、借り入れを聞く際は基本的には件数や金額の多い少ないを見てる。が、それ以上に見てるのは正直に申告するかどうかである。この申告を少なくする人は多いが、多くする人は皆無である。少なく申告すれば貸してくれると考えているのだろうが、そうではないんだよなぁ。ここで人間性を見てると言っても過言ではない。もちろん借り入れてる件数や金額が多すぎると断ることもあるが、当落線上のラインにいた場合、こういったトコが意外と影響して来る事を申し添えておく。




 俺は一通り聞いて裏に行き、電話を取りどこかに電話を掛けてるフリをし、独り言をブツブツ言って、ギリ表に聞こえるような声量で一人芝居をしていた。こういった芝居も時と場合によっては必要である。今回の場合は嫁の借り入れを隠しているのはわかってるので、それを今報告受けた体にする為である。相手に文言が聞こえる必要はない。何かを話しているという事実があればいいのである。町内アカデミー賞でもあれば結構イイトコまでいけそうな芝居に俺は酔った(嘘です)。




 一通りの芝居を終え、俺は表に出ていって中山夫婦の前に座った。




「中山さんね・・・。なんか俺に言う事ない?」




「あれ?わかっちゃいました?言おう言おうと思って言いそびれちゃいました。まぁ悪気はなかったんで。」




 その言い分に呆れてしまった俺はしばらく考えるフリをして、ゆっくりと話し始めた。




「中山さん、あのね、とりあえず増額できるとこっちが明言してた以上増額するけど、額面で15万までやね。理由は今更話さんでもわかるやろ。お互い信用という名の元でお金の貸し借りしてるんよ。それを踏みにじったらアカンわ。どうします?嫌なら断って貰ってもかまわんけど。」




 中山はしばらく嫁と相談をして、お願いしますと言ってきた。まずいつものように保証会社へのFAX。一通り済んで中山にはそのまま振り込みに行ってもらった。その間に嫁さんには連帯保証人となる為の書類を書いてもらった。ちょっと聞きたい事もあったのでおもむろに、




「奥さん、ちょっと聞きたいんやけど、6年ほど前にダンナさんも奥さんも整理したでしょ?お金の出所ってダンナさんサイド?それとも奥さんサイド?」




「夫の方の親族はそれまでに何回も出してきているので、もう無いと言われました。仕方なしに兄へ相談しに行ったんですけど、離婚して戻ってくるのならという条件を出されましたが、説得してお金を出してもらいました。その後はお察しの通りです。」




 この嫁、ひょっとしたらワンチャンあるかもなぁ。離婚せずにお金を出してもらったのなら、、離婚したらもう一回出してくれる可能性がある。まぁそううまくいくとも思ってないが、ダメになった時は本人捕まえて兄に話に行けば可能性はあるな。そう考えると15万は低すぎたのかもしれんが、まぁこれも性分だと思って諦めた。




 その後中山が振り込みから帰って来て、手続きを滞りなく終わらせ、差額を渡して帰ってもらった。そして本店の西島さんに電話を掛けた。




「お疲れ様です。中山の嫁ですが、まぁいいように使われている感はありますね。6年前の整理はほとんどを嫁の兄貴が出したそうです。出すに当たっての条件が離婚だったみたいですけど、嫁が説得したそうです。嫁付けとけばワンチャンあるかもしれませんけど、付けたとこでどう転ぶかもわからんですね。まぁ言っていける先が一ヶ所出来たくらいにしか思えませんけど。ウチはとりあえず15万にしときました。ちょっと欲かいてみようとも思いましたが、やっぱりよく考えてみると危険な感じがしたので15万で止めました。」




「ふーむ、中山自身は信用出来んな。嫁付いてどうなるか?ってとこだろうけど、お前の話だとホントにワンチャンしかないな。嫁付けるか第三者を付けるか、悩ましいとこだな。第三者を付けるまでに間に合えばいいけど、とりあえずの嫁にするかどうか。嫁付けて、次の機会に別なのを付けるって方が現実的かのぉ。」




 他所に付く事がわかってる嫁よりは第三者の方がはるかにいいが、中山の人間性を見てみる限り、別を付けても他所に連れて行ってしまうのは目に見えている。




そんな悩みを抱えながら、その日は終わっていったのである。






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