第12話 中山 7

 中山の経営する店【ジャスティス】に連れてこられた俺は、入る事を躊躇した。めんどくさい事になりかねんと思ったからだ。客から饗応を受ける事は社内ルールで禁止されている。客は基本お金に困っている。困っているから借りているのだろうけど。しかし、そこには審査がある。その審査を甘くして貰おうと、あの手この手で取り入って来るのである。




 さてどうしたもんかと思案はしたが、行こうと促す友人にも悪いからと思い、そこは大人しく入ってみた。ドアを開けて入ると、




「らっしゃいませー!」




 と、威勢のいい寿司屋と間違えそうな掛け声が。友人はそこにいた従業員に久しぶりと声をかけて入って行き、はよ入ってこいと俺をカウンター席に誘った。パッと見た感じ、照明は薄暗く、客数はまぁそこそこ。半分を占めてるってとこか。朝の5時までやってると中山から聞いてるので、まだ早い時間にしては流行ってる方かなと感じる。ボックス席に座っている女性客達を楽しまそうと、某世紀末マンガのザコキャラのような中山が付いている。




 俺と友人は何を飲むかと聞かれ、焼酎の水割りを選択。自分には少々薄くないかっと思う水割りを飲みながら、店の中を観察していた。




 キープボトルは棚に並べてあるが、以前見に来た時にホコリを被っていなかったボトルの棚を見てみた。2本分空いていた。店内を見るに俺ら以外は3組、全てボックス席に座っている。女性ばかりの組が2組、男女混合4人組が1組。っとなると、このうち2組が常連ってとこか。まぁ正直飲みに行っても、仕事目線で観察してるとおもしろくもなんともねぇ。性分だから仕方がないのだが。そんな中、マスターである中山がカウンターの中に戻って来て、俺の友人と話をしだした。




「ひさしぶりやね。こちらさんは?」




「久しぶりー。こっちは俺の友達ね。」




 紹介された俺はよろしくーっと頭を下げたのだが、当然のように中山は動きが固まった。まぁそりゃそうだわな。中山は友人と話をしてるのだが、チラチラこっちを見ながら会話のキッカケを掴もうとしていた。まぁ俺としては連れてこられただけなのだから、そこまで気を使ってもらっても仕方ないのだけど。ぎこちない会話を友人としてた中山はごゆっくりと言い残して、またボックス席に戻っていった。チビチビと一杯ずつ頼むのがあまり好きではない俺はボトルを一本頼み、




「オゴってもらうのは悪いから、ここはお前の土下座記念として俺が出すよ。」




 まぁ俺にしてみたらオゴってもらっていたとか言われるのが嫌なだけなんだけど、中山に好かれたトコで俺にメリットあるわけじゃないし、ここは大人しく払ってさっさと退散しとこうとの意図があっての事だ。




 しばらく友人と俺、従業員の中で会話を続けていると、後ろのボックス席にいた中山が友人に話しかけてきた。うんうんと頷く友人だったが、その内容を俺に伝えてきた。




「後ろに座っている女の子達が一緒に飲まないか?って言ってるみたいだから、オッケーって言っといたから。」




「じゃあ一回清算しとこう。んでこっから先はお前出してね。このボトルは飲み干してもかまわんし、ちょっとしたら俺は寄りたい店あるから先に出るね。」




 うーむ、美人局で来たかーとちょっと警戒してみたんだが、実際客として飲んでる女の子によくいるのだが、そこに来てた男の客と仲良くなって、一緒に飲んで飲み代を出してもらうという行為をしてるってのはまぁまぁ多い。まぁそこまでして飲みたいのかと思ってしまうのだが。自分のお気に入りの男の子がいる店に飲みに行って、その目の前で好きでもない男に媚び売って酒タカるってどうなんだろう?俺に取っては物乞いにしか見えんのやけど。まぁ友人が楽しむならそれもよかろう。そこでどうなろうが、また浮気しようがこの先は知らん。お会計は8000円くらいだったので一万円札を一枚渡して、




「残りはこの後飲む分に置いといてくれるかな。」




 清算を一回済ましてボックス席に移り、女の子とワイワイ飲みだしたまではよかったのだが、俺の隣に座った女の子が少々匂う。なんか三日くらいお風呂入らなかったらこんな匂いしそうだなーって匂い。俺は酒より女の子の匂いの方が気になりだし、会話もあまり面白くなかったので友人に、




「ちょっと行かないかん店に知り合いが着いたってメールで知らせてきたから、そろそろいくわ。楽しんできてね。」




 ボックス席に移って10分ほどしか経ってないので、友人たちは引き留めるのだが、この女の子達が中山の意向を受けて動いてるのはほぼ間違いない。そう感じた俺はさっさと退散するように店を出た。エレベーターを待ってると、中山が追いかけてきた。




「店長ありがとね。いやぁ、こうやって客の店に飲みに行く事もあるんやね。」




「友人に連れてこられただけやで。まぁ中山さんと俺の関係、友人は知らないからね。まぁ楽しませてあげて。一応友人なんで・・・。」




俺はそう念を押すと着いたエレベーターに乗り込み、手を振りながらドアを閉めた。








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