かつて子供と大人の狭間にいた、すべての大人女子に読んでほしい作品です

画家の卵であり、その手に才能を宿す彗と両親の離婚の危機に感情を迷子にしていた澪。二人は午前四時に出会い、誰でもないただの「彗」と「澪」として気持ちを通わせる。
本作は高校生の時に出会う二人から始まり、二章以降は大学生の彼らを見守っていく構成となっています。大学生と言えば子供でもないけれど大人でもない曖昧な時期。そのおぼつかない存在である二人の若者の繊細な感情を確かな筆致で描いています。

本作の特筆すべき点は、見事なまでの表現力です。身近にある小物や何気ない動作の一つ一つに登場人物の心が反映されていて、その美しい表現はまるで絵画を鑑賞しているかのよう。
例えば恋心一つとっても、好きというの感情の裏に、相手と釣り合う存在であるかという不安や、夢を追って先を行く恋人において行かれたくないなどの焦燥感が隠れているのが恋心というもの。幾重にも折り重なった若者達の複雑な感情を、一つ一つ解くように丹念に描き出しています。人の心をここまで美しい日本語で表現できるのかと読んでいて思わずため息が出てしまいました。

本作は一般文芸に近い読み味で、付き合ったり離れたり甘々なシーンがそこかしこに散らばっているというような大きな感情や関係の動きはありません。
その代わり、将来に向かって悩む様子や、恋と友達を天秤にかける心の揺らぎ、わけも分からず泣きたくて心がぐちゃぐちゃになる…という些細な感情の動きが本当にリアルです。かつて私も経験してきた10代、20代の心の不安定さを追体験しているようで、読んでいるうちに昔の自分を澪に重ねてしまいました。
大人と子供の狭間で澪の心は大きく揺さぶられます。それでも必ず側には彗がいて、温かく包んでくれる。その確かな存在が、澪と読者を前に進めてくれるのです。

ライトノベルのように隙間時間にサッと読めるものもお手頃ですが、一文一文浸りながら時間を忘れてその世界に浸るのもまた読書の醍醐味。
たまにはゆっくりと時間をとって、ミモザと絵画が織りなす美しい世界に浸りながら「読書」の時間を堪能してみませんか?本作は間違いなく、あなたの「読書」の時間を有意義なものにしてくれるはずです。

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