お好きな要素、全部盛り!贅沢で美しいファンタジー
- ★★★ Excellent!!!
幼い頃の記憶を一部失いつつも武術の腕を磨き、ひとり逞しく日々を生き抜く少女レイア。ある日彼女が“拾った”のは、綺麗な顔立ちの青年。穏やかなラブストーリーの密かな幕開け……かと思いきや、なんと彼は麗しい瞳を持つ神秘の人魚族であり――さらにさらに、まさかの王子様だったのです!
人魚の青年アリオンの故郷は大国の暴君によって侵略され、仲間たちも大半は殺されるか、人魚の持つ不思議な力を狙って今も囚われています。国も家族も愛情も失った孤独なアリオンを放っておけず、レイアは頼れる仲間達とともに国の奪還を目指す……非常にまっすぐで情熱的なストーリーです。
主人公のレイアは非常に気持ちの良い人物です。話し方はカラッとしていて活動的。女戦士という頼り甲斐のある存在でありながら料理も上手で、アリオンの衣服にも気を配ってくれる優しさも持っています。時に弱ってしまっているアリオンよりカッコよく見えたりもするのですが、人魚の王子と距離が縮まっていくにつれだんだんと女としてのときめきに悩まされていくかわいい主人公です。
物語の鍵を握る人魚の王子アリオン。こちらはめずらしい男性の人魚です。これがまた大変礼儀正しい真面目な王子で、レイアとは正反対の物静かな気質。しかしオドオドしているかといえばそうではなく、人魚の涙に込められた力を狙って拷問にかけられた日々の中でも、一滴の涙も落としてやらなかったほど強い心を秘めた青年です。国と民という大きな責任を一心に背負い救国へと赴く姿はまさに王子ですが、なにやら過去に気になる女性がいたららしくその心は複雑な様子……。
ふたりだけではさすがにどうにも攻め入れないところを、凄腕の槍使いアーサーと弓使いであり医療の知識も持った女性セレナの助けにより、救国は現実味を帯びてきます。色々な町を巡りながらひっそりと情報収集をし、時に美味しいファンタジー料理(飯テロのタグはダテじゃない!)に舌鼓を打ちつつ進んでいくターンはまさに冒険記。昔ながらのRPGにどっぷり浸かっている気分です。
命を賭けた戦いが苛烈さを増すたび、彼らは「今となりにいる人」をどれだけ大事に想っているかを知っていきます。遠ざけたい、一緒に戦いたい……さまざまな想い、そしてそれぞれの秘密が絡まり合い、ストーリーは怒涛のラストスパートへ。すべての糸が繋がった時に起きる奇跡は美しく、胸をアツくさせること請け合いです。
恋とバトルと魔法――そしておいしいごはんまで。あらゆる要素がしっかりと描かれた歯応えばっちりのファンタジーは、「どうせなら全部味わいたいんだけどな」というわがままなあなたにおすすめの作品です。