第4話 異聞寺優という男
眠い。とにかく眠い。
昨日、というか今日は、始発で家に帰り、ギリギリまで寝ていた。疲れからか、すぐに寝ることができた。だけど、普段ならしないようなことをしたせいで、全く疲れが取れてない。こう、体が重い。
界位大学の最寄り駅。改札を抜けた先で、待ち合わせをしていた友人を見つける。
「お~、零じゃんか。おはよ~」
呑気に笑う和夫が、手を振っている。
「おはよう。和夫に聞きたいことがあるんだ」
「お、おう。やけにご機嫌? だな」
和夫は眉をひそめる。それもそうだ。和夫は、学習室に出る幽霊を見て欲しいって、頼んだだけなんだから。僕が異聞寺に会ったことなど、知るはずもない。
「理学部の異聞寺優。あいつについて知ってることは、何でも教えて欲しい」
「え、えぇ!? 異聞寺のこと?? どうして・・・・・・」
驚いたように、瞳を大きく見開いている。そんな変な質問かな。初めて異聞寺のことを聞いたから、不思議に思ってるのかもしれない。まぁ、出会った経緯を話すと長くなるから、それは良いや。今は、異聞寺についての情報を少しでも知っておきたい。
「あ、あはははは~。お前が異聞寺のことを聞きたがるのって、珍しいよなぁ。有名人だから気になっちゃった、とか」
「真面目に聞いてるんだけど」
「か、からかって悪かったよ。怒んなって」
和夫はふざけて、どうどうと両手をパタパタさせる。馬じゃないんだけど。僕の周りはどうしてこう、失礼な人が集まるんだろう。人だけじゃなくて、怪異も集まってくるけどね。
真面目に答える気になったらしく、和夫は頭に手を置いて考え始めた。
「う~ん。俺の記憶フォルダーを漁ってみたけど、零と同じようなことしか知らないと思うな」
「記憶フォルダーって・・・・・・」
「あ、おい。零こそ真面目に聞いてくれよ」
自分で言っていて恥ずかしくなったのか、わざと大きな声を出す。盛大にスベッたことが伝わって良かったよ。記憶フォルダーで笑いが取れると思った、そのセンスは謎だけどね。
「それじゃあ、僕が知ってる異聞寺の情報を挙げるから、それ以外に知ってることがあったら教えて」
「りょ~かい」
和夫は満面の笑みで敬礼をしてみせる。
「界位大学の理学部三年生。入学から今まで、ずっと主席の有名人。まぁまぁ背が高くて、まぁまぁ顔が良い」
「そんなに『まぁまぁ』を強調しなくても」
「すこぶる性格が悪い。とんでもなく態度が悪い。人をイラつかせることにおいて、右に出る者はいない。存在がムカつく。くせに、意外にも授業には真面目に出席している」
「言いたい放題だな。お前らケンカでもしたの?」
僕の圧に押されてか、お茶らけるのをやめて苦笑している。朝一番で友達が、学内の有名人の悪口を並べ立てれば、誰だってこんな反応になる。
挙げた情報を基に、和夫はもう一度考えてくれた。眉間に寄る皺を見る限り、これ以上の情報は出てこなさそうだな。
「すまんな。やっぱり、零が知ってる以上のことは知らないわ。今挙げた情報は、全部合ってると思うぜ」
「そっか。朝からごめんね。ありがとう」
駅から徒歩十分で界位大学に着く。和夫とは学部が違うから、大学の敷地に入って別れた。これから授業を受けて、なぜか異聞寺の呼び出しに応じなければならない。なぜか。
はぁ、足が重い。
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