第8話 依頼人の話①
「は、え。どうして??」
依頼人との約束の場所は、大学内のカフェテラス。この時点で、界位大学の学生かなと予想はしてた。それくらいなら推理できる。
驚く僕に向かって、昼間会ったばかりの友人は笑顔で手を振る。
「よっ。さっきぶりだな」
「優に依頼したのって、和夫だったの。友達として忠告するよ。こいつに頼るのは間違ってる。すぐにでもやめた方がいい」
「そこまで言われる筋合いはないな。同来は賢明な判断をしたんだ。大船に乗ったつもりで任せておけ」
この後、二人で言い合いを始めたせいで、和夫は口を開いて固まってしまった。どう間に入ろうか考えて、控えめな声を出す。
「あの~。そろそろ俺の話を聞いてくれないかなぁ。なんて思ったりして」
「うわ、ごめん。忘れてた。依頼内容を聞かせて」
和夫からは乾いた笑いが漏れる。悪いことしちゃったな。親しき中にも礼儀あり、ではないが、友達そっちのけで優にお説教するのはよくない。あと、僕だけ謝ったのには納得いかない。
「お前ら、短時間で随分仲良くなったんだな。
依頼内容は、この大学の体育館に関することなんだ。ほら、俺はバスケ部に入ってるだろ。・・・・・・あ、この話、異聞寺には詳しく話した方が良いよな? サイトの依頼フォームには、ちょっとしか書いてないし」
気を遣ってか、和夫は目の前に座る優を見る。
「昨日のカフェテラスでの会話は聞いていた。実習と就活で忙しくなるから、この夏の大会で引退するんだろう。それに、同来のことはしっかり調べたさ。小学生の頃からバスケを始め、中学では優勝チームに。大学では、入部してすぐにスタメン入りだってな」
僕と和夫は、信じられないと顔を見合わせる。
お昼時なのもあって、カフェテラスは席が埋まるほど混んでいた。一人で利用している者も多いから、それで目立つということもない。いくら有名人だとしても、優に気づくのは無理だった。
和夫は顔をしかめる。
「こいつ、怖いんだけど」
「だから言ったでしょ。優を頼るのは間違ってるって。盗み聞きするなんて最低」
「ふん。何とでも言えばいい。情報収集は基本だ」
二人からの非難を浴びても、反省する様子を全く見せない。こいつのメンタルはどうなってるんだ。
ふんぞり返る優を横目に、和夫は話を再開した。
「夏の大会が近いから、俺達の練習にも力が入ってるんだ。大学の部活だけど、大会での優勝をマジで狙ってるからな。だから、夜遅くまで自主練してるヤツがほとんどなんだ。はぁ。それなのに、体育館で心霊現象が起きるんだよ。集中したいのに、これじゃあ練習どころじゃない。なぁ、助けてくれよ」
必死な目。和夫は訴えるように、机の上の両手を握りしめる。本心から困ってるんだ。和夫が本気でバスケをやっていることは知っている。見学に行ったことがあるから、他の部員が真剣なのも知っている。友達として、力になってあげたい。
「任せてよ。絶対に解決してみせる。ね、優」
「体育館で起こる心霊現象を教えてくれ」
「か、い、わ。約束したよね」
自分の話を一方的に進めようとした優に、隣から睨みを利かせる。さっき約束したばかりなのに、もう忘れたのか。主席の記憶力はどこへ行った。
約束を守ろうとする気持ちはあるのか、優はわざとらしく咳払いをした。
「俺にかかれば解決できないことはない。心配無用。これで良いか」
「最後の『言ってやったぞ』って顔が余計だけど、合格。依頼する人は悩んでるんだから、気をつけてよね」
「だ、そうだ。早く、心霊現象を話してくれ」
こいつ、本当に反省してるのか? 疑いの眼差しを向けているが、お構いなしで前を見ている。
またもや和夫は、視線を動かして僕らの様子を伺っている。毎回こんなやり取りを挟まれては、相談しづらことこの上ないだろうなぁ。ごめん、和夫。
「具体的な心霊現象。モップが動いたり、体育倉庫からシュッシュッって音が聞こえてきたり、かな。一番多い現象は、ボールと雑巾が一緒に浮いてることだな。どれも、俺達の練習前後に起こるんだよ。忘れ物をして一人で体育館に戻った時なんか、心臓止まるかと思ったぜ」
物が勝手に動く? ポルターガイスト的なことかな。
心霊番組や動画投稿サイトでよく見る現象。映像には姿が映っていないにも関わらず、物だけが一人でに動いている。普通の人には視えないだけで、実際には、幽霊や妖怪が物を動かしている。だから、怪異を視ることができる僕には、幽霊や妖怪が物を動かしている映像に見える。そして、普通の人には、物だけが動く映像に見える。まぁ、中には偽物もあるけどね。
「答えづらいと思うけど、我慢して答えて欲しい。体育館で亡くなった人がいるとか、バスケ部の中で亡くなった人がいるとか。こういう話はあったりする?」
この質問は心苦しいけど、確認しておかないとダメだよね。優に質問させると、どんな言い方をするのか分かったもんじゃない。
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