第19話 副支部長はウサミミさん

「え、大きい……」


 ポカンとした表情をさらしながら、ウサミミさんが呟く。

 しかしすぐにクローのもとへと駆け寄りながら、叫ぶようにたずねてくる。


「っ! そ、その大きさの魔石、もしやスタンピードの主のものですかっ!」


 ざわざわとした探索者ギルドの建物の中を、そのウサミミさんの声が響く。

 ウサミミだけではなく、肺活量も立派なものをお持ちのようで、その声がまたよく通る。


 ざわついていたギルドの建物の中がしんと静まりかえり、皆の注目が一斉にウサミミさんとクローへと集中する。人族を含む様々な種族からの様々な感情の混じった視線。


 嫌なものを感じた私は、本能的にさっとルナの背後へと身を隠す。


「あなた様が倒されたのですか! スタンピードの主を!」


 一身に視線を集めていることなど意に介した様子もなく、クローを問い詰めるウサミミさん。


 ──あんなに注目されているのに。立派なのは、ウサミミと肺活量だけじゃないのか……。


 私がルナのもふもふの尻尾の陰から、こっそり顔だけ出して、その様子をうかがう。


 ウサミミに詰め寄られたクローが、ブンブンと首を左右に振る。

 そして、それだけでは済まなかった。

 クローが、こちらを見てくる。

 その視線につられ、ウサミミさんまで、私の方を見てくる。

 部屋中の視線が、集まってくる。


 私は、反射的に表情を殺し、しゃがみこむようにして目の前にあったものに、とっさに抱きついてします。

 顔面すべてを覆うもふもふ。


 もふもふ。

 もふもふ。


 ただただ、頭のなかをもふもふで満たす。


「あー。出来たらどこか人気のないところで、話しをできぬか?」


 遠くの方で聞こえるクローの声。


「ああ、これは大変失礼致しました。わたくしはこの探索者ギルド支部の副支部長のサミーと申します。わたくしの部屋がありますので、どうぞこちらへ」


 クローの声に応えるウサミミさんことサミーの声。

 そっと私の肩に手が触れる。それももふもふだ。ゆっくりと顔をあげるとルナの安心させるような微笑み。


「あ、ごめん。ルナの……」


 私はルナの尻尾に顔を埋めていたことを反射的に謝るも、ルナの優しげな笑みは変わらない。


「アルマちゃん。大丈夫。行きましょ」


 私の肩におかれたルナの手が、優しく促してくる。

 さらに、ゴンタがさっとその反対側に滑り込んでくる。自分の体で、そちら側の視線から私を隠してくれるゴンタ。

 心底、申し訳なさそうに尻尾をへにょんとさせたクローが、私の前方側に回り込む。


 そうして、皆に守られるようにして私はゆっくりと歩きだした。

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