第10話 はじめてのグリモワール『共有』者
「クロー、時間がないかも」
外の戦闘音がいよいよやかましくなる。
「ですな。よろしくお願いいたします、アルマ殿。アルマ殿のグリモワールを拙者にも『共有』させてください」
「うん、わかった。じゃあクロー、手をグリモワールの上に」
私はグリモワールを滑らせるようにして、クローの前まで持っていく。そこにクローがぽんと手をのせる。
──動作がまるで、お手みたい。可愛い。
そんな感想を表情に出さないように気を付けながら、私はクローに手順を簡単に伝える。
「クロー。クローの手のうえに、私が手を重ねたら、私が伝える通りに繰り返して」
「わかりもうした」
しっかりと頷いたクローを確認して、私は『共有』の手順に入る。
「仮承認グリモワール『アルマの手記』を認証モードに移行。『我アルマ=ラングドークはグリモワール『アルマの手記』を管理する者なり』『深淵の理を目指すは神に叛きし大罪なり』『我が大罪を新たなる共犯者へと背負わせん』」
『共有』の詠唱は、グリモワールに共通のものとなる。そのため表現がなかなかに古くさい。
私はそこまで詠唱してから、クローの手のうえに自分の手を重ねる。
クローが素直に私の発したフレーズを正確に繰り返していく。
「『新たなる咎人として、先達なる偉大なる者への敬意を捧げん』」
「新たなる咎人として、先達なる偉大なる者へと敬意を捧げん」
すらすらとクローは続ける。
「『望むべくは、『アルマの手記』第一章第三節までの叡知』『対価として、使用魔力の百のうちの一を捧げん』」
「望むべくは『アルマの手記』第一章第三節までの叡知。対価として、使用魔力の百のうちの一を捧げん」
そこまできて、私は手をグリモワールへと戻す。
「『管理者アルマ=ラングドークの名のもとに、ともに深淵の理を目指すことを認める』」
私の承認を経て、グリモワールから文字の形をした光が次々と宙へと舞い始める。
空中を旋回するその文字達が円形に並ぶと、魔法陣を形作っていく。
その魔法陣が回転を止めたかと思うと、一気にクローへと集まる。
小さくなりながら、クローの瞳へと吸い込まれていく魔法陣。
「仮承認グリモワール『アルマの手記』、認証モードを終了」
私がすべての光が収まったところで『共有』の手順の終了を告げる。その時だった。
宿の壁が、吹き飛んだ。
ついにスタンピードで溢れたモンスターが、ここまで到達したのだ。
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