第11話 クローのはじめての詠唱

「クロー、こっち!」


 私はグリモワールを回収すると、自分達がついていた席のテーブルをひっくり返すようにして壁を作る。

 大穴の空いた宿屋の壁から身を隠すように、横倒しにしたテーブルの陰に身を滑り込ませる。私は、クローの手を引っ張って隣へ引き込む。


 すぐに杖を構えると、私は詠唱を始める。


「『参照』仮承認グリモワール:『アルマの手記』第一章第三節。範囲指定グリッド作成開始。有効距離設定。基準値1500パーセント。魔力圧縮率70パーセント。放射状射出設定、オートコンプリート実行、実行、実行」


 私は盾にしていたテーブルから飛び出すと、杖を掲げて詠唱魔法を発動させる。

 ちょうど宿屋の壁に顔を出していた迷宮産のモンスターへと、私の詠唱魔法が襲いかかる。


 ──骨っ! スケルトン系か。これは少し、厄介そう。


 人の数倍の身長はありそうな巨大なスケルトン──ヒュージスケルトンが、その手にしていたやはりこちらも巨大な骨製のモーニングスターを振りかぶっているところだった。

 その背後には粗末な刀剣を装備した一般的な大人サイズのスケルトンが、わらわらとしているのも見える。


 そこに襲いかかる、私の詠唱魔法。

 今回は魔力の圧縮率をさげるかわりに、有効射程を短くし、放射状に魔力をばらまく詠唱魔法だ。

 私の、人より多めの魔力で放たれた魔法。その効果は絶大だった。

 先頭のヒュージスケルトンは跡形もなく吹き飛ぶと、その後ろにひしめき合っていたスケルトンたちも次々とその体がバラバラになっていく。


「すごい……。改めて拝見しても、やはりアルマ殿の詠唱魔法は凄まじいですな。並みの戦士が数人がかりで対応するヒュージスケルトンを一撃。しかもその後ろにいたスケルトンも、ほとんど一掃ですか──」


 ぴょこんと横倒しになったテーブルの上から顔だけ出したクローの感嘆の声。


 ──クローのその仕草も、凄まじい威力の可愛さだけどね。


「クローも、詠唱魔法。使い方はわかるはず」


 私はそんなクローに詠唱魔法の使用をすすめてみる。スケルトンは何よりもその数が脅威だ。そして市街地に入り込まれた場合、どこに人間が取り残されているかわからない状況では、私が力ずくで詠唱魔法を広範囲にばらまくわけにはいかない。

 それなら、クローにも手伝ってもらった方がいいだろうという判断だ。


 ──それに、クローの練習にちょうどいいぐらいのスケルトン、うまく残せたし。


「──これが、詠唱魔法!」


 刀を抜き放ち、自身の中へと書き込まれた詠唱魔法を自覚して、驚きの声をもらすクロー。


 そしてクローは、詠唱を始めた。


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