第12話 詠唱魔法剣

「『参照』仮承認グリモワール:『アルマの手記』第一章第三節。範囲指定グリッド作成開始。有効距離設定。基準値……」


 そこで言いよどむクロー。


「30パーセント」


 私はそっと数値を伝える。

 それでショートソードぐらいの長さになる。


「30パーセント。魔力圧縮率……」


 そこで再びつまるクロー。今度は申し訳なさそうに眉を垂らしてこちらを見てくる。

 その破壊力抜群の可愛さから意識して視線をそらしながら、再びそっと数値を伝える。


「150パーセント」


 この前一度見せてもらった感じでは、圧縮率を高めすぎると、クローには負担が大きいはずだ。余裕のある数値を伝えておく。


「150パーセント。直線射出設定、オートコンプリート実行、実行、実行」


 その実行を決定する最後のフレーズがクローの口から詠唱されたときだった。

 半透明な魔力がクローの持つ剣の折れた部分からするすると伸びていく。


 それは、すぐに止まる。

 剣に、小太刀程度の長さの刃がはえていた。


「おお……。おお……っ。やりました。やりましたぞ、父上、母上。伝わりし家訓は嘘ではありませなんだ。魔法剣、成功しましたぞ」


 宙にささやきかけるようにしていたクローの瞳がうるんだかと思うと、一筋の滴がそのもふもふな頬をぬらす。


「クロー?」

「アルマ殿。ああ、アルマ殿っ! ありがとうございます。詠唱魔法はなんと素晴らしい」

「う、うん」


 こちらを向いて抱きつかんばかりの勢いで感謝を伝えてくるクロー。そのあまりの勢いに、私は驚いて返事もままならない。

 しかし、のんびりと話していられる時間は余りなかった。

 すぐに残ったスケルトンが宿の中へと入りかけている。


「使わせて、いただきます。これを。詠唱魔法剣を」


 クローも気づいていたのだろう。

 手にした小太刀──詠唱魔法剣を私に捧げるように一度示すと、ばっと前方、スケルトンたちに向かってクローは駆け出していった。

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