第6話 片手だっこ
「見えてきましたぞ! あれが迷宮都市ジアンゼです」
クローの小さなお手々が指差す先には、カラフルな街並みが広がっていた。
「目が、ちかちかする──」
「何でも、迷宮産の建材で家々が建てられているとか。まあ、多少は、目移りしますな。──それでアルマ殿」
「うん?」
「そろそろ、おろしていただけませんか?」
私にぬいぐるみのように、片手で抱っこされた姿のクローが情けない声できいてくる。
「まだ入り口まで少しある。怪我もまだ癒えていないはず」
ここまでは、私は詠唱魔法を使って低空を飛行してきたのだ。クローの怪我は深くないとはいえ、長い距離を歩くと悪化する可能性はあったし、それに飛行魔法発動中は私に触れていれば、重さを支えるのは魔法の力。
だから、片手に鞄を持ち。反対の手に杖と腕にはクローを抱えて。
──とても素晴らしい、もふもふな感触でした。
これは仕方のないことなのだと一人頷いている私にクローが言いつのる。
「ご配慮、痛み入る。されど、そろそろ。その、ひと目も増えてきましたゆえ……」
耳をぺたんと倒し、尻尾をくるりと丸めて上目遣いでこちらを見ながら、そう渋い声でお願いしてくるクロー。
残念ながら、私にはそのお願いを断ることが出来なかった。
しぶしぶ飛行魔法を解除する詠唱をすると、とんっと街道に足をつける。少し先には迷宮都市ジアンゼに入ろうと並んでいる人々の列が見える。
「──確かに。なんだか見られている?」
よいしょっとクローを下ろしながら私は呟く。周囲にいる、多様な人族がこちらを見ていた。
──あれ。でもあんまり居心地、悪くない。もふもふな種族が多いからかな?
私は周囲をうかがいながら、違和感を覚える。
「きっと、魔法が珍しいのでしょう」
風で乱れた顔の毛を、ごしごしと手で整えたクローがようやく落ち着いた様子で伝えてくる。
「いいよ、気遣わなくて、クロー。詠唱魔法が珍しいんでしょう?」
「うむ──。されどアルマ殿の目的を考えますと目立つのは、そう悪くないですぞ」
「……そっか。そうかもね」
魔法学校では、無駄に目立つ事をすると、いつもカサンドラ達の標的にされていた。
それもあってか、どうやら私は無意識のうちに、目立たないようにした方がいいと思っていたようだ。
──そっか。悪意のある視線が少ないんだ。
そう、少ないだけで、全くない訳ではなかった。
ちょうどその数少ない、悪意ある視線を向けていた人物が、わざわざこちらへと近づいてくるのが見えた。
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