第7話 入り口にて

 嫌な笑みを浮かべながらこちらへと近づいてくる年上の女性。どこかカサンドラを思い出させる顔立ちに、同じような真っ赤な髪をしている。


 その姿に無意識のうちに顔をしかめていた私の手を、急にクローが握ってくる。その素晴らしいもふもふな感触に驚いていると、近づいてくる赤毛の女とは反対の方向、迷宮都市ジアンゼの入り口へと向けてクローが早足で歩きだす。


「入り口はそこです。行きますぞ」


 私もクローに引っ張られるようにして、ついていく。


「──あ、ちょっとお待ちなさいっ」


 背後から赤毛の女のヒステリックな声がしたときには、私たちは迷宮都市ジアンゼへ入ろうと並ぶ人々の列まで来ていた。


「クロー?」

「こっちです。アルマ殿。ああいう手合いは無視が一番ですよ」


 お得意のニヤリとした笑いを浮かべ、クローは並ぶ人々の列を飛ばして入り口にいた制服をまとった係りのもとへ。

 並んでいる人々も、入り口にいた係りの人も最初は何事かとこちらを見るが、クローを見るとすぐに何も言わずに道を譲ってくれる。


 ──いや、正確にはクローの編み込み飾りを見ているんだ。何でみんな、譲ってくれるの?


 私が不思議がっているまに、気がつけば私たちは迷宮都市ジアンゼのなかにいた。

 騒がしい音が背後からする。

 ちらりと後ろを振り向けば、先ほどの嫌な感じの赤毛の女が入り口にいた係りの者たちとなにやらもめているようだった。

 激昂したように叫びだす赤毛の女。すると、詰め所のようなところから、わらわらと同じ制服をきた人族の方たちが手に手に槍をもって現れる。


 ──あ、コボルトに、あれはワーキャット。それに見たことのないモフモフな種族もいる。


 すぐさま制服をきた人達によって、騒いでいた赤毛の女が地面に転がされ、槍を突きつけられている。

 それでも赤毛の女は諦めていないのだろう。

 杖を取り出したのが見える。


「あっ」

「大丈夫ですよ」


 安心させるようなクローの声。

 そこに制服の一人であるワーキャットの高めの声が、ここまで聞こえてくる。


「確保っ!」


 次の瞬間、周りを取り囲んだ制服をきた者たちが槍の石突き部分を、次々に赤毛の女に振り下ろしていく。

 当然、赤毛の女は、魔法が発動することもなくぼこぼこにされていた意識を失ってしまったようだ。


「役人に向かって、武器を向けるのは重罪ですからね。当然の対応ですな。さあ、アルマ殿行きますぞ」

「うん」


 そうして私たちは迷宮都市へと踏みいっていった。

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