第8話 スタンピード

「ねえ、クローって何者?」


 ともに迷宮都市の大通りを歩きながら私はキョロキョロとしているクローにたずねる。


「何者と言われましても……。何か気になることがございましたかな、アルマ殿」


 鼻をクンクンとさせながら、返事を返してくるクロー。


「うん。さっきの。皆、クローのその頭の編み込み飾りを見ていた。それで列を飛ばして入れたんでしょ。それってたしか所属する部族を示すんだよね」

「これですか。確かに一般的なコボルトの編み込み飾りは、そうですな。ふむ、とりあえず宿は、ここでどうですか? 説明するにしても落ち着いての方がよいでしょう。食事も美味しそうですし」


 匂いを嗅ぐ仕草を止めると、自身の頭の飾りに触れながら、そう提案してくる。


「……少し、高そうじゃない?」

「そこは、要交渉で。安全には変えられませんぞ。特に、訪れたばかりの慣れない場所なのですから。そうだ、助けていただいたせめてものお礼に、一泊分ぐらいは払わせて下され」

「わかった。じゃあ、その飾りのことは、あとでちゃんと聞かせてね」


 そういって連れだって宿へと入る。


「あ、ご主人。一人部屋を二つ。空いていますかな」


 クローが宿の主人らしき人物に話しかけている。

 熊の亜人だ。

 ただ、残念なことにその毛はごわごわとしてそうだった。


 私が毛皮の見定めをしている間に、クローは値引き交渉まで手早く進めていた。

 なかなか活発なやり取りのはて、がっしりと握手を交わすクローと熊の亜人の宿の主人。


 私はそこはかとなく違和感を覚えながらも、そのままクローと宿に併設された食堂へ。


 美味しい食事を堪能しおえると、先ほどの疑問を再びクローへとぶつけようと、私は口を開きかけた。


 その時だった。

 急に鐘の音が響き渡る。


 ざわざわとした室内が、その鐘の音いがい、一切の音が止める。

 周りを見渡すと、人々が皆真剣な表情で鐘の音を聞いている。


「スタンピードだ。迷宮が溢れ出すぞ。戦えるものは続け! それ以外のものは避難を!」


 先ほどの宿の主人が、叫ぶ。

 室内にいた人々が、一斉に動きだした。

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