第17話 多重連続詠唱

「クロー」

「なんですかな、アルマ殿」

「ごめん、一分だけ。お願いできる?」

「アルマ殿の頼みとあらば」


 ボーンドラゴンによって詠唱魔法剣の刃を吸いとられたクローが、私のお願いに、なんでもない事のようにそう返事をしてくれる。


「アルマさんもクローさんも! 見たでしょう、ボーンドラゴンの魔力吸収を! お二人の攻撃は吸われてしまうんです! 勝ち目はありませんって」

「ゴンタ、落ち着いてー」


 ブンと大鎚を振りながらゴンタをいさめるルナ。

 残念なことに、ボーンドラゴンはその巨体から推察できるように、パワーでも圧倒的だった。


 ルナの大鎚の横振りを、前足で打ち払うボーンドラゴン。

 ルナが吹き飛ばされる。


「姉貴!」

「──うわっ。ぺっ。大丈夫ー。うまく転がれた。……砂だらけになったけど」


 ルナの美しくふわふわだった毛皮が砂と泥にまみれていた。


 ──ゆるすまじ、ボーンドラゴンっ!


 私はすでに始めていた詠唱の最中ではあったが、ルナの姿に思わずボーンドラゴンへの怒りを募らせる。

 愛すべきモフモフを汚された怒り。それを心の奥底へぎゅっと押し込める。

 うわべだけは冷静に。

 その通常よりかなり長い詠唱文を一音たりとも間違わないように。


 そうして、ようやく一つ目の詠唱が完了する。


「──────、実行、実行、実行」


 それは、私のとっておき──多重連続詠唱の魔法。


 詠唱魔法を詠唱するための詠唱魔法だ。

 次に私が詠唱した詠唱魔法を、自動で詠唱し続けてくれるのだ。魔力が続く限り。


「さあ、ボーンドラゴン。モフモフの怒りを思い知れ」


 私は杖を構え、宣言すると、魔法を詠唱する。


「多重連続詠唱『参照』仮承認グリモワール:『アルマの手記』第一章第一節。範囲指定グリッド作成開始。魔力圧縮率100パーセント。直線射出設定、オートコンプリート実行、実行、実行」


 そう、やることは簡単。ただ、私の魔力の塊を撃ち出すだけ。


 最初に、魔力の光の塊が一つ、生まれる。

 すぐさま、それが二つに。

 そして、三つに。

 やがて数えきれない数の魔力の光の塊が生まれ、つぎつぎボーンドラゴンへと降り注いでいく。


 当然、その全てを吸収していくボーンドラゴン。降り注ぐ魔力の塊を気にした素振りもない。ただその前足を振るい、クローとルナを狙っている。それを必死にかわし、しかし注意を引き続けてくれる二人。


 私の詠唱魔法は、何の成果も出していないようにみえる。

 降りそそいでいく魔力の光の塊の量だけは、どんどんと増え続けていく。


 やがて、異変がおきる。

 それは、最初はごく僅かなもの。

 しかし、直ぐに誰の目にも、明らかとなる。


「額の矢傷が、光っている?」


 ゴンタの呟き。

 そして、事態は一気に変化した。

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