第20話 サミーの部屋にて

 私は背後でドアが閉まったのを確認して、ほっと安堵のため息をつく。


 ここまでピタリと寄り添っていてくれたルナに、見上げるようにして視線を合わせる。

 優しげでこちらを心配してくれているのが伝わってくるルナの瞳と目が合う。


 しばらく視線をあわせて、もう大丈夫と意思を込めてゆっくりと頷いて見せる。

 それだけで察しのよいルナは理解してくれたのだろう。最後にぎゅっと抱き締められる。


 ──ああ、もふもふだ……。でも、このもふもふに、甘えてばかりいちゃダメ。例え、その柔らかさと滑らかな肌触りに、この身の全てをなげうった先に、楽園があるのがわかってはいても。私は、しっかりと自分の足で立たないと。皆に、申し訳ない。


 私の身じろぎにあわせて、ルナがゆっくりとその身を離してくれる。まるで私の決意を理解してくれたかのように。


 私は安住の地たるもふもふを離れ、前へと踏み出す。

 こちらを冷静な眼差しで見つめる探索者ギルドの副支部長たるサミーの眼前へと。


 心配そうなゴンタとクローの視線を感じながら、私が皆から一歩先まで進んだところでサミーが声をかけてくる。


「この度はわたくしの配慮が至らず、先ほどは大変申し訳ございませんでした。お詫びをさせて下さい。何かご要望はございますか」


 深々と頭を下げてくるサミー。その大きくふわふわのうさみみが、私の目の前で縦に揺れる。


 ──これは、なかなかできる!


 私はサミーにのまれないように気合いを入れる。私たちの様子だけで事情を察する能力。そして最初に謝りを入れてきたこと。


 ここで私から文句の一つでも言えば、必然的に、もうそれは子供のわがままのように聞こえてしまうだろう。


 さらに、お詫びとして要望を言わせることで主導権を握ろうとしているとも感じらる。


「私はアルマ。よろしく」

「よろしくお願いいたします。改めましてサミーと申します。どうぞみなさま、お座り下さい。それでアルマ様。その魔石についてお伺いさせていただけますか」

「うん」


 私はすすめられたソファーに腰かけると、鐘が鳴ってからの出来事を簡単にサミーへと説明した。


「なるほど。アルマ様がスタンピードの主を倒されたのですね。お陰でこの街は救われました。街の住人を代表して感謝を致します」


 座ったまま深々と頭を再び下げるサミー。

 そのうさみみが再び私の目の前で大きく縦に揺れる。


「さて。では、報奨と先ほどのお詫びのお話しをさせて下さい。まずその魔石ですが、探索者ギルドにお売り頂けるのでしたら通常の二割ましで買い取らせて頂きます。また、お詫びとしては次にお持ち込み頂きお売りされる品につきましても二割増しにて買い取らせて頂くのはいかがでしょうか」

「私とクローはまだ探索者の登録をしていない」

「もちろんそちらも登録に関わるすべての手数料を無料にて登録させて頂きます」


 私はそのタイミングで皆を見る。

 探索者であるルナとゴンタは、肯定なのだろう。そっと頷いてくる。


「アルマ殿。拙者からもよいかな」


 そう言って、クローがゆっくりと話しに参加してきた。

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趣味はグリモワール作りの陰キャですが、なにか? 御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売 @ponpontaa

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