第3話 もふもふな生き物を助けました

 目を塞ぎたくなるほどの閃光。


「キャウンッ」


 コボルトの悲鳴。先ほどはずいぶんと渋い声だったが、今回はどこか可愛らしい。


 そして訪れる、静寂。


 私の放った魔力は容易くワームを貫通。さらにその頭部を、そして体の半分を、消し飛ばしていた。

 いかに生命力の強いワームとはいえ、体の半分以上を吹き飛ばせば、その命は当然、ついえる。


「頭を潰しただけだと、しばらく、じたばた動くから危ない。うん。威力的にはちょうど良かったぐらい──?」


 私はワームの残った部分がピクリとも動かないのを見て、自身の詠唱魔法の結果に満足して呟く。


「ねぇ、君は大丈夫? ──て、あれ。意識、失っちゃった? うーん。止血ぐらいはしてあげないと、だよね」


 私はコボルトの返事がないことを確認し、そっとその艶やかな毛皮ごしに体に触れる。

 その毛が、指の隙間をくすぐる。見た目通りの柔らかなそれは、土ぼこりに汚れていてもその素晴らしい感触を保っていた。


 ──呼吸と脈はあるね。


 それだけ把握すると、名残惜しさをたえて、一度毛皮から手を離す。そのまま鞄を開き、持ってきていた手当て用の道具を取り出す。

 両手の指を一度わきわきと動かしてほぐすと、私はさっそくコボルトの傷の手当てを開始した。


 ◆◇


「──キャンっ」


 そんな声をあげてがばっと身を起こすコボルト。


「っうぅ。痛たた……」

「消毒と、止血の軟膏。そのあと包帯をしただけだから。傷は深くないみたいだけど、あまり激しくは動かない方がいい」


 私は焚き火の調整をしながら目を覚ましたコボルトに話しかける。


「あ、ああ……。貴殿が助けてくれたのか。まこと、かたじけない。この身が無事と言うことは、もしやワームは?」

「うん。倒した」

「ああ……」


 驚いたように言葉を洩らすコボルト。しかし気を取り直した様子で、ゆっくりのそのそと姿勢を変え始める。


 そして、短い手足を折り畳むようにして、コボルトは正座の姿勢をとる。

 ちょこんとしたその姿は不謹慎ながら、かなり可愛い。


「ワームを倒し、しかもこの命を救ってくれたばかりか、手当てまで。感謝を」


 正座の姿勢のままお礼を伝えると、コボルトは頭を下げてくる。


「お名前をうかがっても?」

「アルマ=ラングドーグ」

「ラングドーグ殿か。拙者はクロー=シルバーテール」

「アルマでいいよ」

「わかりもうした、アルマ殿。して、ワームを確認させていただいてもよろしいか?」

「うん、あっち。あ、魔石はもらったよ。配分?」


 私は手にしていた杖で、焚き火の向こう、少し離れた場所にある解体済みのワームの残骸を示す。


「いや、魔石は当然討伐したアルマ殿のもの」

「じゃ、遠慮なく。ワーム肉はいる?」


 ワーム肉は一部の種族で好まれると聞いたことがあった。コボルトが食べるのかはわからず、私は念のため確認しておく。


「いや、そんな厚かましいお願いはとても……」


首をふりふり否定の言葉を告げるクロー。

しかし、その時だった。

キュルキュルキュルという可愛らしいお腹の音が静かな夜に響く。


「……それではお言葉に甘えて」

「うん、私は食べないし持ってけないからどうぞどうぞ」


私は笑顔で告げると、ゆっくりと立ち上がりワームの残骸の方へと向かうクローを見送った。



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