第36話 p.3

「あ、あの、アーシャ……さん?……何をしているの?」


 僕の問いにアーシャは、背負っていた籠を降ろすと、熊手を僕に渡してきた。


「オレのことは、アーシャでいい。本来なら、この世界へ来る前に、仕事道具は自分で揃えてくるもんなんだが、……まぁ、お前は仕方ない。しばらくは、俺のを貸してやる」

「えっと……ありがとうございます」


 僕は、一応ペコリと頭を下げると、アーシャから熊手を受け取った。しかし、どうすれば良いのか分からない。熊手の柄を握りしめ、僕は、首を傾げた。


「あの、それで、これで何をすれば……」

「俺たちの仕事は、Ash clockアッシュ・クロックを作ることだ。今回は、ここの砂を集める」

「Ash clockって? さっきも、ここはAsh clockを作る場所だって言っていたけど……」

「質問には答えてやる。だが、まずは手を動かせ。その熊手で、ここの砂を掻き集めろ」


 アーシャは籠のそばに腰を下ろした。仕方がないので、僕は、アーシャに言われた通り、熊手を握り、屈んで砂を集め始める。しかし、砂はとても固い。ガジガジと熊手を動かす。力を入れても、削り取れる砂は、ほんの少しだ。


「結構、固いだろ?」

「……っはい」


 僕は、手に力を入れながら小さく頷く。


「ここの砂は、Ashアッシュと呼ばれている。俺たちは、このAshを使って、時計を作るのが仕事なんだ」

「それが、Ash clockアッシュ・クロック?」

「そうだ」

「砂なら、さらさらの取りやすいものが、歩いてきた道に、いくらでもあったのに。なにも、こんな固いところを削らなくても……」


 僕は、砂の硬さに早くも根を上げそうだった。そんな僕を、アーシャは仕方のない奴だとでも言いたげに、ため息を吐く。


「それは、俺も仕事をしていて常々思う。だけど、さらさらのAshは、使えねぇんだ」

「なぜ?」

「お前、さらさらのAshを触ったか?」


 アーシャに問われ、僕は彼に会う直前に、手の中に降り積るように落ちてきたサンドパウダーの感触を思い出す。


「うん。さらさらで温かかった」

「そうか。じゃあ、今、削り出したAshを触ってみろ」


 アーシャは促すように顎をしゃくり、視線を、僕の手元に向ける。僕は、話をしながらもガジガジと動かしていた熊手を、そっと地面に置くと、ようやく少し削り出されたAshを両手で掬った。


 途端に、僕は目を見張った。削ったことで、さらさらの粒子にはなっていたが、温かいと思っていたそれは、とてもひんやりとしていた。


「冷たい……」

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