第30話 p.6

 時計は、午前4時15分を表示していた。ゲームの配信開始から、既に1時間以上が経過している。他の人の進捗状況は、分からない。もうクリア者は出ただろうか。急がなくては。


 11人目、代々木。弁が立つ。コイツに口で勝てたことがない。


『いつもいつも、小難しい言葉を捲し立てやがって。唾が飛んでくるんだよ!』


 12人目、大久保。弁当が旨そう。しかも、自分で作っているらしい。


『毎日、旨そうな弁当持ってくんじゃねー。余計、腹減るだろーが!』


 13人目、高田。美意識高い系。あの化粧水がいいだ、この美顔器がどうだ。そんな事ばかり言ってくる。試しに、勧められたニキビケアをやってみた。


『お肌のケア? めんどくせぇんだよ。むしろ、変わったの塗ったせいで、ニキビ、増えたじゃねぇーか!』


 14人目、馬場。いつも音楽を聴いている。そして、たまに、鼻歌が漏れ出ている。


『いつも、ジャカジャカとうっさいんじゃ! 特に、鼻歌! 音外れると、気になるだろうが!』


 15人目、大塚。いつだって、何にだって全力投球。無駄に頑張っている。


『何でもかんでも頑張ればいいってもんじゃない! 頑張りがから回ってる時に、フォローさせられるこっちの身にもなれ!』


 よし! ラスト5人。ラストスパートだ。


 16人目、田端。『声がデカすぎるんだよ!』


 17人目、日暮。『男のくせに可愛すぎ! 惚れるわ!』


 18人目、上野。『本が好き! 本が友達!! って、じゃあ、僕はお前の何なんだ!?』


 19人目、秋葉。『オタ臭出すな! 布教とか言って、僕を巻き込むな!』


 ラスト20人目、神田。『いつも眠そうにするな! 見てるこっちが、眠くなるわ!!』


 僕は、肩を大きく上下させながら、最後の紙飛行機アイコンをタップした。


 時刻は、4時44分。


 20人にメッセージを送り終え、メッセージ画面を閉じる。なんだか、異様にバクバクと鳴る胸に、右手を置き、深呼吸を一つする。肩から、力が抜けた。


 それから、『Get rid of anger』をタップし、ゲームを開くと、ミッション完了という選択肢のみが表示されていた。何も考えずに、押す。


 すると、クリア1人目の文字と、ケケケと笑う悪魔の笑顔が、画面いっぱいに映し出された。


 クリア1人目!! どうやら、頑張った甲斐があったようだ。


 小さく拳を握っていると、“プレミアイベント開始までしばらくお待ち下さい”という、コメントが追加で浮かび上がった。そして、画面は唐突にブラックアウトした。

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