第12話 昼休み  ゆっくり休憩……のはずが

 息つく暇もないほどの客を捌き切り、ようやく昼休憩。


 彼は、一度バックヤードへと戻り、手製の弁当らしき小さな手提げを下げ、販売フロアへ足を向ける。


 迷うことなく何かを購入すると、一人、店を出た。


 昼休憩の間に、先ほどの女の子とのエピソードを詳しく聞こうと思い、我々は、急いで彼を追い掛けた。しかし、不思議なことに、店舗の外に彼の姿は見当たらなかった。


 仕方がないので、彼への聞き取り調査は、彼が戻ってきてからにしようと諦め、昼休憩をしているパートのおばちゃんたちに、彼の働きぶりについて聞いてみることにした。


 あれだけ熱心に仕事をする彼のことだ。周りも、さぞ、ベタ褒めだろうと予想しつつ、我々は、おばちゃんたちへの取材を開始した。


“休憩中すみません。ちょっとお話伺えますか?”


「あ〜。はいはい。何〜? 若さの秘訣? それは、毎日卵を食べることだよ。アハハハ」

「聞いてないし〜。キャハハハ」


 おばちゃんたちは、我々を無視して大いに盛り上がる。


“あ、いえ。同僚の山田さんについて、お話伺えますか?”


 盛り上がっているおばちゃんたちを制して、質問を投げる。すると、一瞬、場の空気が冷たくなった。


 どうしたのだろうかと不思議に思っていると、おばちゃんたちは互いに目配せをしあい、やがて、一人が口を開いた。


「あの人、うそつきよ〜。すぐ嘘つくの」


 うそつき? 誠実という言葉が似合うあの彼が?


“どういうことですか? 我々には、仕事熱心で、すごく誠実な人に見えますが?”


「仕事熱心ではあるんだけどね〜。でも、お腹痛くて、仕事に遅れたとか、子供みたいなこと言って、よく仕事に遅刻するのよ。特に、昼休憩の後に……」

「そうそう。この間もーー」


“……お話、ありがとうございました”


 我々は、挨拶もそこそこに、おばちゃんたちの輪を後にした。


 そんな我々を気にする様子もなく、その後も、おばちゃんたちは、彼の『うそつき』について、止めどなく口を動かし続けていた。


 予想を裏切られ、我々は途方に暮れる。


 おばちゃんたちの話では、彼の『うそ』は一度や二度ではないようだ。我々が、今日見てきた彼の姿は、取材用に作られたものなのだろうか?


 詳しいことを彼の口から、聞いてみたい。ジリジリとした気持ちで、我々は、彼の戻りを待った。


 しかし、休憩終了の五分前になっても彼は戻らなかった。

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