第11話 午前9時 開店、そして怒涛のレジ打ち
店内にチャイムが鳴り響く。いよいよ開店だ。
我々は、営業の邪魔にならないよう、店の隅から取材を続ける。
日曜日の朝のスーパーは、目玉商品を狙って押し寄せる客でごった返す。レジには、すぐに近所の奥さま方が行列を成した。
しかし彼は、それを物凄い速さと正確さ、そして、丁寧な接客で捌いていく。我々は彼の凄さを目の当たりにした。これぞ、まさに彼がスーパーマンと言われる所以だろう。
しばらくすると、買い物カゴに目玉商品を詰め込み、おしゃべりに花を咲かせる奥さま方に混じって、困惑顔の小学生らしき女の子が一人、レジの行列に並んだ。
女の子は、小さめの牛乳パックを握りしめ、酷く浮かない顔で、自分の順番を待っていた。
行列が流れ、女の子の番となる。レジカウンターに牛乳パックを置き、女の子はポケットから封筒のような物を取り出すと、それをレジ内の彼に渡した。彼は、それを受け取り、女の子に何か話かけている。
我々の待機している場所からでは、彼らの会話までは聞き取れない。彼らは、二言三言、言葉を交わし、女の子は会計を済ませると、レジを後にした。
会計を済ませた女の子は笑顔になっていた。
我々は、彼らが一体どんな会話をしたのか知りたくて、女の子に声をかけてみた。
“すみません。ちょっとお話、よろしいですか?”
女の子は足を止めて、我々を不思議そうに見る。
“先ほど、レジの人と、どんなお話をされていたのか、教えてもらえますか?”
「えっと……、お使いですか? と聞かれました」
女の子は、さらりと我々の質問に応えてくれた。
“ちなみに、今日の買い物は、お使いですか?”
「ちがいます。公園にいるネコが、全然エサを食べません。だから、牛乳を買いに来ました」
“レジの人にもその話を?”
「はい。お兄さんも心配してくれて、気にかけてくれると言っていました」
“そうですか……。お話、ありがとうございました”
女の子は、笑顔で店を後にした。
我々は、再び、レジ内の彼へ視線を戻す。
よく観察してみると、彼は、会計の間に、お客とよく言葉を交わしていた。そして、レジを後にした客たちは、皆揃って満面の笑みで店を後にしている。
誰にでも分け隔てなく接し、小さな子供にも心を配る。それが出来るからこそ、彼は、接客のプロ、スーパーマンと呼ばれているのだろう。
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