第22話 7.残り1本っだぞ!

--ザシュッ!


 ターゲット目掛けて一直線に放たれた矢が、小気味良い音を立てた。


 僕たちは、呆然とその光景を目に映す。


 愛の矢は、見事に木の幹を捉えていた。刺さった反動で、まだ矢は小刻みに振動している。


「タ、ターゲットは?」


 確かに今の今まで、目の前にいたはずのターゲットの姿がない。


 目をパチクリとさせていると、愛が、小さく声を出す。


「……あそこに」


 ターゲットは、見事に地面に突っ伏していた。何というタイミングで転ぶのだ。


 そんなターゲットの姿を見て、僕は、脱力して大きく息を吐き出した。


「あの……すみません」


 愛は、肩を窄め、シュンとしている。


「仕方がないよ。あれは、不慮の事故さ。まさか、あのタイミングで、あんなにも大胆に転ぶだなんて、誰も想像できないもの」


 愛に慰めの言葉をかけつつ、僕は、冷静に考える。


 タイミングが良すぎるというか、悪すぎるというか。まさか、縁を結べないお相手だったか。


 僕は、愛に気がつかれないよう、もう一度、そっとため息を吐くと、頭を切り替える。


 既に2本の矢を失ってしまった。残りは1本。慎重に事を進めなければ、事務所の信用問題に関わってくるぞ。


 まずは、条件を確認し直そうと思い、ふと疑問に思う。


「何で、スポーツをする人なんだろう?」

「何がですか?」


 僕の呟きに、愛が、不思議そうに小首を傾げながら、聞き返してきた。


「真野くんの第2条件だよ。第1条件のように、何か理由があるのかなと思って」

「あぁ。それは、健康的だからだそうです」

「え? なに? その当たり前な理由……」

「当たり前では、ダメなのですか?」

「ダメではないけど、初めがユニークだったから、次も期待するじゃん」

「……」


 愛の白けた視線には動じず、僕は続けて口を開く。


「因みに、第3条件は?」

「かっちりした人、です」

「かっちり?」

「ご自身が、研究にのめり込みやすいので、生活を正してくれるような人をご希望だそうです」

「なんだそれ? 子供か?」


 思わずツッコミを入れてしまったが、実は、お相手に望む条件としては、案外悪くない。


 それぞれに、欠点をカバーし合える。それこそが、生涯を共にする為には必要なことだろう。


 しかし、時間がない今回のような案件で、その条件を見極めることは、かなり難しい。


 「髪が長い、スポーツをする、かっちり……」


 真野純がお相手に希望する条件を、僕は小さく口にしつつ、何処かに良さげなターゲット候補はいないかと、視線を彷徨わせる。

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