第21話 6.愛の矢、2本目っだぞ!

 愛によって放たれた矢は、ターゲット目掛けて、一直線に飛んでいく。


 これならば、すぐに成婚率も上向きになるだろう。


 申し分ない腕前に、僕は、余裕綽綽、腕を組み、事の成り行きを見守っていた。


 しかし。


--ペシ! カランラン……


 耳に届いたその音に、僕は、目を見開く。


 愛の矢は……


 ターゲットが、ファサっと首元の髪をかき上げた拍子に、無情にも手の甲で払い落とされ、虚しく、地面に転がった。


「あぁ……」

「そんな……、私が、外すなんて……」


 僕の口からは、無意味な音が漏れる。僕の隣で自信満々に矢を放った張本人も、信じられないと言うように、呆然としている。


 ターゲットは、自分が仕出かした事など全く気が付かず、取り巻き達と楽しそうに談笑しながら、屋内へと姿を消した。


「あの……、すみません。弓の腕には、かなり自信があったのですが……」


 愛は、失敗したと言う事実に、相当打ちのめされているようで、すっかり俯きポーズだ。


「だ、ダイジョブ、ダイジョブ。ほら、まだ、矢はあと2本あるし。次、次……」


 僕は顔を引きつらせながらも、愛のテンションを戻す為、なるべく明るく応える。


「次……そうですね。次こそは」


 愛は顔を上げ、キリリと表情を引き締めた。


 しかし、あのターゲットは、ずいぶんとタイミング良く、愛の矢を払い落とせたものだと考えて、ある可能性に思い至る。


 稀にあるのだ。他のキューピットの矢を受けている者を、ターゲットとしてしまうことが。


 ターゲット被りが起こることは滅多にないのだが、全くないと言うこともない。そんな時は、今回のように、ターゲット自身によって、本人たちはそうとは気づかずに、愛の矢を払い落とすことが出来る。


 もしかしたら、的中済み物件だったのか。


 そんなことを考えていると、耳元で、愛が遠慮がちに声をあげる。


「あ! あの人はどうでしょう?」


 愛の指し示す方へ視線を送ると、Tシャツにショートパンツスタイルで、颯爽とジョギングをする、ショートヘアの女性がいた。


「あの人、髪短いよ。真野くんの条件には……」

「ですが、真野さんの第2条件は、スポーツをする人ですよ。条件は1つ当てはまればいいのですよね?」

「確かにそうだけど……」

「私に、任せてください。今度は、絶対外しません」


 先ほどのこともあるので、慎重にターゲットは見極めたほうが良いのだが……


 僕の逡巡の隙をついて、愛は、2本目の矢を番え、ターゲット目掛けて、目一杯弓を引き絞る。

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