第20話 5.愛の矢、1本目っだぞ!

 相談者 真野まのじゅんは、よほど、結婚を急いでいるようだった。これは何か訳ありかと思い、それとなく理由を聞いてみた。


 彼は、愛が通う大学の大学院生で、何かの研究をしているようだ。


 本人曰く、恋愛や結婚には、全く興味がなく、日々研究だけに没頭していたいらしい。つまり、見た目通りの人だった。


 しかし、周りがそれを許さない。両親や、彼が師事している教授などが、事あるごとに、「誰か好い人はいないのか」「身を固めてはどうか」と、彼の将来を案じてくる。それがとても煩わしい。その煩わしさを回避するには……


 そうだ! サッサと結婚してしまえばいいのだ!!


 という考えに至ったのだと言う。


 なんだか、動機がめちゃくちゃ歪な気もするが、本人が望んでいるのだから、ここは、一肌脱ぐしかあるまい。


「と言うことで、愛くん! 一肌脱いでくれ」

「いきなり、セクハラですか? 最悪ですね」

「イヤイヤイヤ。違うじゃん。コレは、言葉の綾じゃん。知らない? 一肌脱ぐって?」

「知っています。冗談です。コミュニケーションの一環です」


 は? 冗談!? そんな、苦虫を噛み潰したような顔で、冗談とかやめてよ。そんなんだから、内定取れないんだよ。


 僕は、暫くの間、上を向き、いつもよりも瞬きを多めにした。


 なんとか気持ちを落ち着けると、辺りを伺う。僕たちは、依頼を遂行する為に、純と愛の通う大学へとやって来ていた。


 依頼者の身近なところに、お相手となり得る人物がいないだろうかと、物陰からそっと様子を伺う。


「愛くん。真野くんの第1条件は、なんだったかな?」

「髪の長い人、だそうです」

「は? 何それ? 美人とか、金持ちとか若いとかじゃなくて?」

「私欲がダダ漏れですね。軽蔑します」


 僕は、両手を顔の前で思いっきり振って、射殺いころさんとするかのような、愛の冷たい視線を散らす。


「ち、違うよ。よく聞く条件を言っただけ。でも、長い髪って……」

「長い髪は、手入れが大変なので、それを維持し続けている女性は、他でも努力を惜しまずにしてくれそう、とのことです」

「な、なるほど。着眼点が些かユニークな気がするけれど、一理あるかも」


 変に納得をした矢先、数メートル先の角から、沢山の取り巻きを連れた女性が現れた。


 緩く巻いた長いミルクティー色の髪をなびかせるその様は、まさに、ターゲットにふさわしい。


「愛くん! あの人!! あの人にしよう」


 僕の指示に従って、弓の名手、岡部愛は、サッと矢をつがえ、初任務に手を掛けた。

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