第32話 p.8

 しかし、死神は涼しい顔で、僕の意見をバッサリと切り捨てる。


「そもそも、心穏やかな者は、こんな胡散臭話には、飛び付かぬ」

「……ぐっ……」


 僕は、死神の言葉に、声にならない声を出す。そんな僕に、死神は冷ややかな視線を向ける。


「それに、万に一つ、飛び付いたとして、多くの者に怒りを撒き散らすなど、簡単には出来まい。せいぜい、1人か2人に当たり散らすくらいのものだ」

「……」

「それをいとも容易たやすくやり終えたソナタは、滅殺基準を充分に満たしておる」


 何だよそれ? 僕は完全に嵌められたってことか?


「なんだかんだ言ってるけど、そもそも、この変なゲームの釣りのせいじゃないか! 1000万円貰えるんじゃないのかよ!」


 死神は心底呆れたように、溜息をつく。


「デマカセに決まっておろう。常識的に考えれば怪しいと分かりそうなものだが、ソナタは、バカか?」


 死神の言葉に、情けなくも、あんぐりと口を開けて、僕が絶句していると、死神は、意地悪そうにニヤリと笑う。


「まぁでも、そうだな。1000万AGは付与してやろう」

「……そんな使えないポイントなんか……」


 僕は、涙目で死神を睨みつける。


「今後、最高神ゼウスの意向によって、多くの『怒り狩』を行うことになる。しかし、私1人では手が足らなくなるのは明らかだ。そこで、1000万AGを有している者を死神見習いとして採用しよう。どうだ?」

「イヤだよ! 誰が死神なんかに……」

「そうか? では、ソナタを処分するしかあるまいな。見習いとなれば、ソナタは死ぬことはないのだが……まぁ、良い」


 そう言うと、死神はガチャリと大鎌を構えた。


「まま、待って、待って。死ななくて良いってどう言う事?」


 僕は、死神の言葉の意味を慌てて聞く。


「死神となれば、死という概念が無くなるのだ。永遠にその場にあり続ける。その代わり、ソナタの生きた証はこの世から全て消し去る」

「消えるけど、あり続ける?」

「そうだ。今回のことで、ソナタは友の心に傷を付けた。死してなお、疎まれ続けるか。誰の記憶にも残らないか。選ばせてやる」


 僕は無言で考えた。1人悶々と考えた。死んでから、嫌われるなんて、とても嫌だった。


 僕がようやく出した答えを告げると、死神が大鎌を一振りした。


 僕は、全身黒い服に包まれる。部屋はただの空室と化し、僕の痕跡は見事に消えてなくなった。


「では、2人目のクリア者のもとに行くぞ」


 死神に連れられて、僕は無言で闇世へと飛び出した。






**************************************

『Get rid of anger 〜怒り狩〜』、完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆


次ページからは、『Ash clock』をお届けします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る