第10話 午前6時 品出し準備

“おはようございます。今日はよろしくお願いします”


 こちらの呼びかけに、彼は作業の手を止め、爽やかな笑顔を見せてくれた。


「おはようございます!」


 その笑顔は、早朝だというのに潑剌はつらつとしていた。


 営業用の作り笑いでも、取材用の格好つけた笑顔でもない。そんな彼の笑顔に、好感を覚える。


 今日は、いい取材が出来そうだ。


 そんな期待を胸に抱きながら、我々は早速、取材を開始した。


“朝から大変な作業ですね”


「コレですか? そうですね。荷物の積み下ろしは、肉体的にキツいです。でも、スーパーでは、必要な作業ですから、仕方ありません。それに、体力トーニングになりますから。僕は、なるべくこの時間のシフト入りを希望しているんです」


 我々、取材クルーに爽やかな挨拶をした際にだけ作業の手を止めた彼は、忙しそうに作業を続ける。


“こんなに大変そうな作業をいつもお一人で?”


「……いつもではないですよ。店長や専務が行う日もあるので……」


 彼は控えめに応えるが、どうやらこのスーパーは、彼の頑張りに支えられているようだ。


 彼は、この店でアルバイトをしている。出勤シフトは、週5日、月に20日程度。出勤時間はまちまちだが、休憩1時間を含む9時間勤務。フルタイム並みに働いても、月の稼ぎは20万円にも満たない。


“それだけの時間働くのであれば、もう少し、働く環境なり待遇面の良い所で働いた方が良いのでは?”


 我々は、素朴なそして至極真っ当な質問を、彼にぶつけてみた。その問いに彼は、はにかんだような困ったような笑顔で応える。


「僕は、この『スーパー ヤス』以外で働くことは今のところ考えていないのです」


“それは何故ですか?”


「あまり大きな声では言えませんが……」


 彼は声を潜めてこう言った。


『僕にとって、この店はとても都合がいい店だから』と。

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