第13話 午後1時 やっぱり好青年に見えるけど
息を切らした彼が店へと駆け込んできたのは、午後の仕事開始時間を10分ほど過ぎた頃だった。足元が、少し汚れている。どこへ行っていたのだろうか。
店長やパートのおばちゃんたちに、申し訳なさそう謝りながら、そそくさと仕事を始めた彼に、我々は、コッソリと声をかけた。
“仕事に遅れたようですが、何かあったのですか?”
「いや〜、休憩から戻る途中で、お腹が痛くなってしまいまして……」
彼は、片頬を軽く掻きながら、罰が悪そうに応えてくれた。しかし、それは、おばちゃんたちが昼休憩時に話してくれた言葉のままだった。
“もう体調は大丈夫なんですか?”
「はい、もう」
それだけ言うと、彼は仕事へと戻って行く。
まさかの、言い訳を耳にしてしまった我々としては、このまま取材を続けるべきか、悩んだ。
しかし、やはり彼の仕事ぶりは真面目であり、とても嘘をついて、仕事をサボる人には見えない。
結局、我々は午後も彼を取材対象として観察することにし、午前中と同じく、店の隅にて待機した。
彼は、午後もテキパキと仕事を熟す。
午後の仕事は、主に、商品の補充・整理のようだ。
彼が陳列棚を黙々と整理していると、年配の女性が声をかけた。
何か商品を探しているのだろうか。販売店では、よく見かける光景だ。
そう思いながら、彼らに注視していると、年配の女性は、何か封筒のような物を彼に差し出した。
彼はそれを受け取ると、サッと懐にしまう。そして、年配の女性と数回言葉を交わす。終いには談笑し、女性は店を後にした。
我々はその光景に見覚えがあった。
午前中に話を聞いた、あの少女とのやりとりも、こんな感じではなかっただろうか。
不思議な既視感に、我々は首を捻る。
他の店員を見ていても、そう言った光景を見受けることはない。どうやら、彼だけが、客と特別なやりとりをしているようだ。
彼の仕事終了時間まで、注意深く観察を続けたところ、その後、二名の客との間で、同じようなやりとりを確認した。
どうやら、彼には何か秘密がありそうだ。
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