ギャルゲ世界の極悪非道なお嬢様にTS転生してしまったので、ハーレム気取るイケ好かない主人公からS級美少女たちを根こそぎ奪い取ってやろうと思います。〜百合ルートを開拓して毎晩パジャマパーティー!

おひるね

【一章】死と絶望の果てで『耳ふぅー』されたのなら──。

第1話 縦巻きロールをやめるのです☆(前編)


「嘘……だろ……?」


 鏡に映る姿に愕然。


「そんな、バカな……」


 天にも昇る気持ちから一転。

 生まれてこのかた感じたことのない、ガックシ感に苛まれてしまう。


「勘弁してくれよ……。こんなのって、ないだろうが……。どうして、お前が……」


 俺は知っていた。鏡に映るを──。


 青春時代にドハマリした恋愛育成シミュレーションゲーム。ドッキドキ魔法女学院。通称『ドキ女』に登場する悪役キャラ──。


 稀代の殺人鬼。セツナ・ベアトリーゼに他ならなかったからだ。


「ありえない。冗談じゃないぞ……」


 俺はてっきり、幸せいっぱい夢いっぱいの異世界転生をシちゃったモノだとばかり思っていた。


 でもそれは大きく違っていて、ゲーム世界のお邪魔キャラへの転生だったんだ。


「……くぅ」


 思うところはいろいろある。あり過ぎて困るくらいだ。


 なんせ俺は三十路を超えたおっさんだ。それがどうしてか、目が覚めたら女の子になっちまってるってんだから、これはもう大事件だった。


 でもな、そんな悩みはすぐに吹っ飛んじまったよ……。

 吹っ飛んじまったからこそ、こうして今──。後悔の念に押しつぶされてガックシしちまっているんだ……。


 あぁ、そうさ。俺は勘違いしてしまったんだ。今にして思えば浅はかで早計の早漏野郎だった。


 非モテな青春を送り、彼女居ない歴=年齢のまま、ついついうっかり三十路に突入してしまったがばかりに欲望が先行しちまったんだよ。


 目が覚めたら、ふかふかベッドの上でさ。

 乙女の寝室と一目で知らしめる、可愛らしい天蓋カーテンまで掛かっててさ。

 住み慣れたカビ臭い俺の部屋とは大違いでさ、息を吸えばエロティックでロマンティックな甘美な香りが鼻をくすぐってやばいのなんのって!


 此処がお嬢様の寝室だって気づくのに、二秒と掛からなかったさ。


 そんで身体の異変にもすぐに気づいたさ。あるべきものがなく、股間が猛烈に寂しかったからな。



 …………うん。そこから先は、あっという間だったよ。



 いったいなにが起こっているのか。夢か幻か、はたまた現実か。そういうのを一旦ぜんぶ、遥か彼方に追いやって。


 …………………。


 …………………。


 揉んだよ。揉み揉みしたよ!


 嗅いだよ。嗅ぎ嗅ぎしたよ!


 そしたらもう、止まらなくなっちゃって──。



 息を吸えば甘美な香りが鼻をくすぐりたおす。


 匂いの発生源はもちろん、オレ!


 己の体臭と知りながらも、クンカする鼻は止まらない!

 止まらない。止まらない。クンカクンカクンッカァー!


 髪の毛も可愛らしいブロンズでさ。ちょっと癖っ毛が気になりはしたけど、ツヤッツヤできらびやかでさ。


 そしてなにより、デカイ!

 ハイココ重要! 胸元に大っきなお山を標準装備! 推定Fカップはありそうな佇まい!


 にも関わらず! 健康的な美形スタイル! 太もももそそるそそる超そそる!


 あっちもこっちもムニムニ柔らかい!


 どこ触ってムッニムニ!


 あぁ確信したよ。こいつは『欲張り巨乳お嬢様(美少女)』だってな!


 こーんないい匂いがして、こーんなスタイル抜群のえちえちともなれば美少女フラグがビンビンのビーンよ!


 そう思った瞬間に思考回路はドッカーン。


 気づいたら夢中になって揉んでいたさ。自らの両の手で大っきなお山をさんざん揉みしだいてしまったさ。


 めっちゃ柔らかいな?! 手に収まり切らんな!

 たまらんけしからんな! けしからたまらんな!


 ってな……。


 こればかりは健全な男子足るもの、仕方がないのさ。

 三十路Overとはいえ、童貞ともなれば心はいつだって少年さ。


 それにこの身体は俺んだし。誰に咎めらるわけでもなしに。やりたい放題好き放題の権利があるわけだしな!


 あぁ。有頂天だったさ。これから始まる美少女巨乳お嬢様ライフに心が踊ったよ。


 股間が寂しくはなっちまったが、Fカップ巨乳お嬢様として人生Reスタートできるなんて夢を見ているのかとさえ思ったよ。



 ──しかし。現実は慈悲の欠片もない凄惨なものだった。


 

 美少女お嬢様だなんて、とんでもない!


 クセっ毛だと思っていた髪の毛はくるんくるんの縦巻きロール……。

 クンカしまくった匂いの正体はしつこい油汚れもビックリな厚化粧と香水……。


 俺の中に存在する可愛いの定義から最も掛け離れた存在……。


 ──稀代の殺人鬼、セツナ・ベアトリーゼだってんだから事件も事件。大大大事件さ!


 だってこいつはお邪魔キャラとしてのみ作られた、世の男たちを魅了するキャラクターとは根本的にコンセプトが違うんだ。


 可愛くないんだよ。それはもう悪人面のケバい女なんだよ!


 それがまだ! 普通の女の子なら受け入れたさ。美少女だのなんだの言っても、結局のところは心だろ? 大切なのはハートだろ? 外見なんて二の次さ!



 あぁそうさ! 見た目なんて関係ねぇのさッ!



 ……でもな、この女は中身こそがくっっそ最悪なんだよ。性根の腐った極悪人なんだよ。


 ヒロインの髪の毛を丸刈りにしたり、珈琲に砂糖を入れる感覚で毒を盛ったり、笑いながらヒロインのお腹にズブズブとナイフでメッタ刺しにしたり。


 凄まじく狂気に満ちた殺人鬼なんだよ!



 そもそも『ドキ女』は普通のギャルゲーとは違う。

 親密度を高めれば高めるほどに、ヒロインの命が危機に晒される新感覚シリアスギャルゲー。


 全ルートを網羅した廃プレイヤーである俺だからこそ、この女がどれだけ悪魔じみているのか嫌でもわかってしまうんだ。


 だから──。この女だけは好きにはなれない。生理的に受け付けないんだよ!


 そんな女の胸を揉みしだいて、あまつさえいい匂いだなって髪の毛を鼻にまとわりつかせてクンカクンカしまくってからに!


 それだけならまだ! 三十路童貞わかげの至りとして、切なくも甘酸っぱい思い出として処理できたさ!


 ……あぁ、そうだよ! 履いてたパ○ツもクンカクンカしたよ!


 生脱ぎクンカしちゃったんだよ!



 あほか!! 俺ぇえええ!!



 初めてだったのに。ゼロ距離でクンカするのも、揉み揉みするのも、パ○ツを頭に被るのも初めてだったのに!


 脇の下をクンクンするのも初めてだったんだぞ!


 俺のたくさんの初体験が、殺人鬼って……おまっ。ふっっざけんな!


 これなんて罰ゲームだよ?! 


 ざけんなざけんなざっけんなー!!













「……ふぅ」


 まぁこれくらいでいいだろう。己を戒めるのはここまでだ。


 なんてったって今はまだ、殺人鬼ではないからな!


 どのルートを辿っても、殺しが始まるのはストーリーの中盤以降だ。


 つまり今はまだ、幼気なケバい女の子。

 そんでお嬢様属性持ちのチートキャラ。


 しかも──。ママーンは幼い頃に蒸発していて、パパーンは遊び人で家には寄り付かない。


 単なるお嬢様キャラではなく、放任されたお嬢様!


 殺人さえ起こさなければ、ゲーム終盤に用意された断罪イベントも起こらない!(はず)


 つまり──。ありがちな破滅ルートさえ回避してしまえば、誰にも邪魔されない勝手気ままなお嬢様ライフが確約されているってことだ!


 食う寝るには困らないどころか、贅沢三昧し放題!


 だから俺は決めたよ。

 魔法女学院には通わない。


 初手にて、ルートを完全無視!

 

 そんで、側付きのメイドにイタズラなんかしちゃったりしてさ。俺はこの世界で独自の百合ルートを切り開くんだ!


 幸いにも、世界は至って平和だからな。

 戦争やらなんやらで世界が崩壊するようなことにはならない。


 平和な世の中で愛と恋をシミュレートする。恋愛育成シミュレーションゲームに蔵替えしてやんよ!


 ヒロインもなにもかも総入れ替えで、タイトルさえも変えてやる!


『ワガママ巨乳お嬢様は今日も今日とて爆乳ギャルメイドにイタズラちゅっちゅする! 〜さぁ、はじめよう。きゃっきゃうふふのぺろりんちょタイムを!』


 コンセプトはこんな感じでいいだろう。


 ……うん。攻略対象はメイドのみ。


 こればかりは仕方がないのさ。だってさぁ。セツナ・ベアトリーゼってキャラは入学して早々に壮絶ないじめにあうんだぜ? 


 まぁ、俗に言う『上京令嬢』ってやつだからな。風当たりが冷たいのさ。


 それを助けるのが主人公様ってパターンよ。これは確定イベントで逃れようのないプロローグ。


 そして悲劇の始まり──。


 きっとセツナの中で主人公様が世界のすべてになっちまうんだろうな。

 だからギャルゲー主人公らしく色んな女とイチャコラする姿を見て許せなくなっちまうんだ。


 無論、俺が男相手にトキメクことは万にひとつもありはしないが──。虐めはヤダ絶対。


 なによりセツナは孤独に愛される存在だからな。学校に行ってもエ○くて楽しいきゃっきゃうふふな百合ゲーライフは送れないんだよ。


 それに俺は兼ねてから思っていた。この手の破滅ルートを回避したいのであれば、引き篭もれば良くね? ってな!


 ってことで──。

 そうと決まれば二度寝だ! 引き篭もりライフの醍醐味だいごみとは、なににも縛られない悠々自適で自堕落な生活にある!


 っしゃあ! ぐーすかぴーすんぞ!


 と、今後の方針ととりあえずの目的が決まったところで──。


 ──トントン。


 ドアがノックされてしまった。


 おいおい、まじかよ。これから二度寝しようってときに、ふざけんなよ? …………とは、ならない。だってこれってば、側付きのメイドがトントンしているフラグがビンビンにビーンと立っちゃってるワケだからな!


 さっそくわがままお嬢様を発動して、メイドにイタズラできるチャンス到来なワケだよ!


 怖い夢みっちゃったの〜うわ〜んうわ〜んからの、添い寝腕枕で二度寝コースへGO!


 なんてったって俺は、お嬢様!


 お嬢様の言うことは〜、絶対!


「えへ、えへへ」


 ──トントン。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか」


 あ……。男の声。しかも初老を迎えてそうな爺さん声……。


 そういえば、セツナ・ベアトリーゼの側付きのは爺さんだった。……うん。爺さんなのに執事ではなくメイドなんだよな。それもミニスカメイド服を着させられてるってんだから、涙なしでは語れない。


 チェンジしようにも、今日までの苦労を思うと無下にはできないのが辛いところだな……。


 まっ、とりあえず──。


「いいですわよ! お入りなさいですわよ!」


 今日から俺はお嬢様!

 語尾を御上品に「わよ」や「ですわ」「かしら」で飾れば、それっぽく聞こえるはず!


「はっ。失礼いたします」


 うん。言葉遣いは問題なさそうだな。


 でも──。わかっていたことだけど、いざ目の前に現れるとキツいものがあるな。


 ミニスカメイド服と言えば聞こえはいいが、言い換えれば「ゴスロリ爺さん』だからな。ニーソまで履いちゃってるし……。


 初老としての威厳も、執事としての尊厳も──。プライドもヘチマもナニもかもを一挙にして奪い取り蹂躙じゅうりんするような、恐ろしい服装だよ。


 こんな酷いことを当たり前にやってのけてしまうのがセツナ・ベアトリーゼって女なんだよな。


 今は殺人鬼ではないってだけで、素質有り才能有りのクソッタレ女である事実は揺るがない、か。


 傷つけた人たちからの信頼を取り戻せはしないだろうが、これ以上、誰かを傷付けるような真似だけはしないようにしなくちゃな。


 ……まあ、メイドにイタズラはしちゃうけどね!


 この際、爺さんが側付きってのは受け入れる。

 その代わり、メイドではなく執事にジョブチェンジしてもらおう。


 建前上は出世として、執事長的なポジションを与えて側付きを解任!


 からのからの〜新たにギャルメイドを雇ってしまおうではないか!

 なんせこの家には金がある! 二人でも三人でも雇えばいいのさ!


 そんで怖い夢見ちゃったの~! からのギャルメイドと添い寝! からのからの抱き枕コース! んでもって〜イケナイ夜!


 お嬢様、いけません! そんなところ、らめぇぇぇええええ!


 ──ファッフーン!


「お嬢様、お気を確かにしてお聞きください」


 おっといけない。妄想が止まらない。


 それにしてもやけに神妙な面持ちだな。爺さんがミニスカメイド服を着ているフザケた状況なのに、緊迫した空気がひしひしと伝わってくる。


 もしかして、なにかやらかしちゃったのかな。


 まさかのドジっ子メイド属性持ちか……?

 

「なにごとかしらですわよ?」


「専任魔術講師、レオン・ハートなる一行が正面玄関より、真っ直ぐこちらに向かってきております」


 ん? レオン? 

 ……あぁ。この世界の主人公様だったな。


 プレイ時は生前の俺の名前『たかし』でプレイしていたからな。危うく忘れてしまうところだったよ。


 それにしても女学院の教師ってうらやまけしからん設定だよな。なぜ俺は、主人公さまに転生できなかったのか……。


 って。待てよ。だとしたらおかしいぞ。だってまだ物語は序盤。ていうか最序盤だろ?


 入学式イベントすら済んでいない。

 言うなれば始まりの村で目覚めたに等しい状況。


 んで、主人公さまが俺になんの用?


「あらあら。どういった御用件かしらのですわよ?」


「………………………」


「はっきり言いなさいかしらのですわよ!」


「……はい。レオン・ハートなる一行が確かな殺意な持ち、こちらに向かってきております……」


 は? おいおい、嘘だろ? 今の俺ってば、始まりの村で目覚めたLv1の冒険者みたいなものじゃないのかよ?!


 もう既に入学式イベントは終わってるってか?!


 じゃあ今って、いつなんだよ?!


 どのルートを走ってるんだよ?!


 つーか殺意ってなんやねん?!


 いや。そんなことよりも──。


「……逃げましょう」


 逃げるは恥だがなんとやら!


 元より俺は正面から向き合うつもりなんてねーのさ。不登校と洒落込んで引き篭もってギャルメイドにイタズラ三昧を尽くすつもりだったからな!


「申し訳ございません。強固な結界を張られており、敷地内より逃れる術はございません」


「袋小路ってことですわの……?」

「……左様にございます」


 ……おいおい。バカ言っちゃいけねぇよ! 転生してまだ、一時間とかそこいらしか経っちゃいねぇだろうが!


 これってばもう、破滅ルート末期ってことなのか?


 バッドエンディング目前ってことなのか?


 冗談だろ?!


「御安心ください。この老体、ただでは死にませぬ。ベアトリーゼ家の誇りと威信いしんに懸けて、一矢報いてやりますゆえ」


 え、なに? 死ぬの? 


 ちょっと待って。……待とうよ?


 美少女巨乳お嬢様に転生シちゃったと勘違いして、さんざん揉みしだいてクンカしただけだよ?


 パンツ被ったりなんかして、黒歴史を築いただけだよ?


 それで俺のこの世界での生は終わり?




 ……は?



 嘘……だろ……?



──────────────

後編へと続きます。


以前に投稿した令嬢もののリメイクです。

最後までお付き合いくださると嬉しいです!

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