第2話 Reスタート


 スリスリ。むにむに。む……に……むにむにむにむにむに‼︎


「柔らかい。柔らか過ぎる。女の子の柔肌、まじたまらん!」


 …………って、おいおいおいおーい! これじゃ前回と同じじゃんか!


 ん?


「……同じ?」


 思ってすぐに、摩訶不思議な状況に気がつく──。


 部屋を見渡すと、セバスの死体はなくなっていて、壊されたはずのドアも直っていた。


 まるで、何事もなかったかのように元通り。


 極めつけは──。推定Fカップはありそうな双山を鷲掴みにするのと同時に、揉まれるという男としてはありえない、感触──。


「はっ!!」


 だからこれは!

 殺人鬼のだっつーの!


 ……やれやれ。こいつはたまげた。


 最初から最後まで夢でも妄想でもなかった。


 揉む&揉まれる。この感覚がすべて現実だったことを、証明している。


 ってことは──。

 二回目。時間が巻き戻っている。


 Reスタート。タイムリープしちゃってるってやつ!


 ならば思い出せ。謎の声は言っていた。


『縦巻きロールを辞めるのです。

 専任魔術講師。レオン・ハート好みの淑女になるのです』


 …………ははっ。みえたぞ! この世界での俺の役割。ひいては生存ルートがな!


 言うなれば今はセーブポイントからのReスタート。破滅ルート終盤という馬鹿げたセーブポイントではあるがな!


 そうとわかればまずは、主人公こと、レオン先生とのの確認だ!


 異世界転生の定番中の定番!


 あれをやるときが来た!


 普段はコントローラーを握って画面越しに当たり前に見ているけども!


「ステータスオープン!」

 

 …………………………おや?


「ステータスオープン!」


 …………………………おやおや?


「カスタムコマンドオープン!」

「エンハンスアー○メント!」

「マキシマイム○ジック!」

「能力超向上!超向上!超向上!」


「俺のターン、ドロー!」


「ど、ドロぉぉぉー!!」


「……はぁ。……はぁ。……はぁ」


 嘘だろ……? なにも起こらない……だと?


 ……いや。なんとなく予感はしていた。けれども考えないようにしていた。


 何故なら──。この女、セツナ・ベアトリーゼには魔術の適性がないからだ。


 剣と魔法の世界のくせして、この女は剣も握れなければ魔法も使えない。


 この世界はセツナ・ベアトリーゼにとっては優しくない。紛ごうことなきヘルモード。


 数多のギャルゲーをプレイしてきた俺なら攻略できると思ったんだけど……。


 無理だ。


 これはもう、ゲーム世界であってゲーム世界ではない。


 如何に全ルートを網羅した生粋のギャルゲリストといえど、親密度が伏せられている状況では攻略のしようがない。


 だってこんなものはもう、現実世界となんら変わらないのだから。


 ひょっとしてこいつ、俺に気がある? およそ九割は勘違いとされる救いようのない世界と同じだ。


 所詮この世は建前と打算でできている。


 親密度という裏付けがなければ、ツンとデレの違いにすら気づけないのが三十路童貞の常だ。


 かと言って、諦めるわけにはいかない。


 俺にはもう、他に道は残されていない。


 謎の声の言うとおりにするほか、道はない。


 それにな。死ぬのは痛いし怖いけど、ギャルゲーを途中で投げ出すほど、生半可にプレイして来たわけじゃないんだぜ!



 縦巻きロールを辞めろって言ってたよな。まあ確かに俺もこれはないと思ってたよ。


 髪型で人は変わるって聞いたことがある。


 案外、ひょっとして? もしかして……?







 +


 よしっ。たったの一時間しかない。


 顔や性格は兎も角として、幸いにもスタイルは出るとこ出ているFカップえちえちスタイルだ。


 とりあえず、厚化粧と縦巻きロールをやめてみるだけの価値はある。


 ってことで、セバスを呼ぶか。


 魔力ゼロの無能とは言え、そんじょそこらの令嬢とは訳が違う。


 この女のパッパは汚職に塗れた遊び人だが伯爵様だ。


 家だって豪邸というより御屋敷。


 敷地面積は窓から見渡す限りでも千坪はありそうな広さだ。


 で、あらば──。メイクアップアーティストやら何とかコーディネーターやらの、専任の従者が居るはず!


「セバス! セバスは居るのかしらのですわよ?」


 なんのことなしに呼んでみると──。何処からともなく現れ、ふかふかベッドの前に跪いた。


「お嬢様。馳せ参じました」

 

 お、おぅ。良かった。生きてる。


 けど今、風になびいてパンチラしよったぞ。モッコリしておったな?


 ……いやはや。本当に二回目なんだな。

 ゴスロリ爺さんとの再開が全てを裏付ける。


「あらあら、お早い登場だこと。さすがはセバスですわね!」

「勿体なきお言葉」


「さっそくで悪いのだけれど、わたくし、おめかしをしたいの。専任の従者を連れてきてくれるかしら? よろしくて?」


 セバスは何故か険しい顔を見せた。


 ひょっとしてあれか。専任の従者が多過ぎて、誰を呼べばいいか決められないってか?


「そうね。髪のセットとお化粧をしたいの。お願いできるかしら?」


「……いつもご自身でやられているではありませんか」


 ほーん。このパターンか。


「わたくし、今日は淑女になりたい気分なの。詳しい者を連れて来なさい!」


「……………………………………」


 いや、なんか言えよ。


 時間ないんだよ? 一時間後には死んじゃうんだよ!


「セバス、なんでもいいから女子力が高そうな子を連れて来なさい! 可愛い子限定よ! それから巨乳で! スカートの丈は膝上20cm! 太ももがそそる子よ!」



「………………………………かしこまりました」


 随分と間のある返事だったな。


 さすがに注文が多過ぎたかな。


 でもせっかくだし、少しは楽しみたいじゃん!


「大至急よ! さぁ、お逝きなさい!」


「ははっ──」



 頼んだぞ、セバス!







 +


「はぁーーーーっ」


 ふかふかのベッドの上で大の字になってクソデカ溜め息を吐く。


 女の子の朝って大変だよなぁ。の朝は顔洗って歯磨きして終わりだもんなぁ。


 女の子はそっから朝シャンしたり、髪の毛を整えたり、化粧したり、…………こうやって揉み揉みしたり…………。



 って、だから!


 これは殺人鬼のだっつーの!


 つーか朝から揉まないから!




 …………いやはや、本当に女の子の朝は大変だ。




 揉み。揉み。揉み…………。


 









 +


 どれくらい時間が経ったのだろうか。


 ただでさえ時間が無いと言うのに、セバスはまだ戻って来ない。


 ──トントンッ!


 あっ、来た!! セバスだな!!


「お嬢様、至急お伝えしたい事がありますゆえ」


「いいわよ! さっさとお入りなさいですわ!」


「ははっ──」


 あ……れ? セバスだけ?


 巨乳で太ももがそそるメイドは? どこ?


「専任魔術講師、レオン・ハートなる一行が正面玄関より、真っ直ぐこちらに向かってきております」


 は?


 おまえ今まで何してたの?

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