第3話 Reキュン死にフィナーレ


「(レオンせんしぇいに耳元で囁いてもらいながらきゅん死にするーんだぁ♡ きゃはっ♡ あはぁん♡)」


 …………って、待て待て待て待てーい!


 ちょっとでも気を抜くと下品な思考に呑まれてしまう。


 身体は正直ってやつだろうか。


 ……でも。でもな?


 死ぬのは怖い。剣で刺されるのは痛い。


 だったら案外、ありなのでは?


 だってもう詰んでるし。死ぬしかないし。縦巻きロールのままだし。生存ルート絶たれてるし。巨乳で太ももがそそるメイドは居ないみたいだし。


 ここから先は、どう苦しまずに幸せに死ぬか? ってだけじゃない?


 一回目ならまだしも二回目だからね?


 希望もヘチマもないよ?


 戦力差は歴然。奥の手発動のベアトリーゼ家の最終兵器リーサルウェポンでさえも瞬殺。



 …………うん。決めた。


「(レオンせんしぇい♡に耳元で囁いてもらいながらきゅん死にするぅ♡)」



 …………よし。そうと決まればセバスは逃してやるかな。


 主としてきゅん♡きゅん♡している恥ずかしい姿は見せられないし、二度も死体を拝むのは勘弁だしな。


 幸いにも主人公さまは無駄な殺生はしない。固有結界が張られた袋小路な状態でも白旗上げれば逃してくれるだろ。


 ってことで。


「あなたは今日でクビよ。二度とわたしの前に現れませんことよ! よろしくて?」


 まっ。ありがちな、嘘丸出しな解雇宣言。


 真の執事なら、主の意を汲み取る場面。


 なんせ逃げろと言ったところで、一回目の下りをそのままそっくりやり直すハメになるだけだからな。


 さぁ、セバス。お前はゴスロリ衣装が似合う変態爺さんメイドか、はたまた真の執事か!


 ジャッジ!


「……お嬢様。…………この御恩。死んでも尚、来世に渡り忘れません」


 そうか。良かった。

 セバス、お前は真の執事なのだな!


「あらあら。解雇された身でありながら恩を感じるだなんて、フザケてますわね? 不愉快ですので目の前から消えてくださるかしらのですわよ?」


「……お嬢様……お嬢様…………うぅっ……感謝の、極み…………では、来世でまた──」


 バカ野郎が。去り際にパンチラしやがって……。


 でも──。


 じゃーな。真なる執事。セバス・チャン!






 +


 よし。これで部屋には俺ひとり。


「ふふっ。ふふふっ」


 やばいやばい。顔がニヤけて止まらない。


「レオンしぇんしぇーい♡ セツナはこのベッドに居ますよぉぉぉぉ♡」


 ──きゅん。きゅん♡


 あの耳打ち……ベッドの上で仰向けになれば、馬乗りに押し倒されて……覆い被りながら……きゃっ♡


「えへ、えへへ♡ あっ♡ ヨダレが……はぁはぁ♡」


 きゅんっ♡ レオ様きゅんきゅんっ♡


 あはっ♡


「はーやーくぅ♡ こーろぉーしーにーきぃてぇー♡」


 ……………………。

 ……………。

 ………。

 ……。


 やばいな。この女、なんかいろいろ極まってるな。


 でもな、この気持ちを真正面から受け入れれば死への恐怖は無くなるんだよ。


 痛いの反対!


 苦しまずに死にたい!


 上等ッ! 受け入れてやるよ!!

 

 ──さぁ、キュン死にルートの開幕だ!!







 +


 ──ドッカーン!


「セツナ・ベアトリーゼ! 抵抗しなければ、安らかなる死を約束する!」


 来たぁ! 

 勢いよくドアを破壊しての登場だぁ!


 レオンしぇんせー♡ ずっと待ってたよぉ♡


 ──きゅんっ♡ きゅんっ♡


「ひゃぁッ♡」


 ベッドの上で怯えるフリ。ふふふっ。


 せんせーはーやーくぅ♡

 わたしはここです。セツナはふかふかベッドの上から動きませんよぉ!


「怯えなくて大丈夫だよ。じっとしていればすぐに終わるからね」

 

 はぁん♡ 思ったとおり、剣を突きつけられながらも、馬乗りでの耳打ち♡


 もう死んでもいい。最高ッ。


 しゅきしゅき♡ レオン先生だぁいしゅきぃ♡ はぁん♡



 …………でも、欲が出ちゃう。


 もっとお耳をゾクゾクさせてほちぃの♡


 レオンしぇんせーのイケボでもっともっと耳をめちゃくちゃにしてほちぃの♡


 だから! このタイミングでさらに怯えるフリッ!


「ひゃぁぁ。死にたくない。死にたくないよぉ……命だけは……どうか命だけは……」


 まっ、ガチで死にたくはないけどな? 


「すまない。俺は君を殺さなければならない。どうかせめて、苦しまずに、安からに──(フーッ)」


 キッッタァァァー!

 ボーナスステージキター!



   〝〝耳が幸せぇぇ!!〟〟




 微かに残る理性の中で、真っ赤に染まるシーツが見えた。


 苦しくなかった。


 むしろ幸せだった。


 きゅん死に、最高かよ?









 +


『……ねぇ、やる気あんの?』


 脳に声が響く。意識がある……。


『三十路童貞であるはずのあなたが、一度ならず二度も男相手に魅了されてしまうなんて、ガッカリを通り越して、ドン引きです』


 なにやら俺を知っているような口振りだな。


 これではまるで、選ばれてセツナ・ベアトリーゼに転生したみたいではないか。


 ……こんな女に? 選ばれて?


 冗談じゃない。こんな異世界転生はな、罰ゲームでしかないんだよ!


 だからここは──。


『俺には無理です。期待に応えられなくてすみません。他を当たってください』


『貴方に魔道具を二つあげるわ。清楚系美女になるのです。縦巻ロールにさよならを告げるのです」 


 ねぇ、話聞いてる?


 一回目のときも思ったけどさ、一方的が過ぎるんじゃないの?!



 





 +


「ハッ!!」


 おいおい嘘だろ……?


 また始まっちゃったよ……。



 棚の上に不自然に置かれる二つの物。おそらく魔導具、だと思うのだが……。


「……なにこれ」


 化粧落とし? と、ヘアアイロン?!


 それはドラッグストアや家電量販店で馴染みのあるもので、異世界には似つかない、とってもおかしな物だった。


 しかも、使用済みの中古品…………。

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