(後編)
──ドッカーン!
「ひぃ?!」
ポカンとしている間に部屋のドアが破壊されて、主人公さま御一行のご登場──。
「セツナ・ベアトリーゼ! 抵抗しなければ、安らかなる死を約束する!」
なんだよ、そのセリフ? これまじで死んじゃうやつじゃんか……。
しかも牢屋や断頭台送りルートじゃなくて、デッドオアアライブ。見つけ次第、即殺せのやつじゃんかよ……。
いやいや。本当に待ってくれよ。
俺、異世界転生したんだよな? だったら破滅フラグを回避したり、なんかそんな感じに幸せを掴んでいくものじゃないのかよ?!
なのに、なんだよこれ?!
どうなってんの、これ?! おかしくない?!
「ねぇっ?!」
そう思ったら何故か──。藁にもすがる思いからか、ゴスロリ爺さんの裾を掴み、目で訴えかけていた。
「お嬢様……。側を離れないでくださいね。ここはわたくしめにお任せください」
ゴスロリ爺さん……。
フザケた服装のはずなのに、メキメキとオーラのようなものを感じる。
まさか、やれるのか?
……無理だ。全ルートを網羅した俺だからこそ、わかる。
こうなってしまった以上、セツナ・ベアトリーゼに助かる道は用意されていない。
あるのは、死のみ……。
「大丈夫ですよ。この命に変えてもお守りしますゆえ、ご安心ください」
ゴスロリ爺さん……。あんたのこれまでの苦労は、ニーソとミニスカが織り成す、歪な絶対領域が全てを物語っているんだよ。
だから忠義とかそんなんよりも、命を大事にしてほしい。
幸いにも主人公さまは無駄な殺生はしないタイプだからな。
その証拠に、すぐに切り掛かってくるわけでもなく。むしろ俺と爺さんに話す時間をも与えてくれている。
「いいのよセバス。あなただけでも逃げなさいですわよ」
確か名前はセバス・チャン。
「いえ。この命、お嬢様とともにありますゆえ」
これだから古い人間は頑固でいけない。
命あってこそだろ? 死んだら終わりやねんぞ?
「命を粗末にするものではありません。今日までご苦労様でした。さぁ、お行きなさいですわよ! 老後は自然豊かな地でスローライフでも送るといいのですわよ! ですわのよろしくて?」
「お、お嬢様……?」
この世ならざる者でも見ているような驚いた面だな。
きっと、セツナ・ベアトリーゼらしからぬセリフなのだろうな。普通なら「わたしを守って命を投げ出しなさいよ! このクズ! 無能! じじい! 肉壁になれー」くらい言ってのける女だもんな。
だから仕方がない。
「うぅっああああああ」
涙だって出ちまうよな、ゴスロリ爺さん。
「さぁ、お行きなさいですわよ! 泣いている暇はありませんですわよ!」
「……いえ、お嬢様。それには及びません。この老体、覚悟が決まりましたゆえ。先祖代々伝わりし、奥の手を使わせていただきます。ですのでご安心ください。必ずやお嬢様をお守りになってみせます」
……なんだって? 奥の手? そんなんあるなんて初耳だぞ?
「御老人。できることなら戦いたくはないのだが。引き下がってはくれないか?」
「
ちょっとちょっとなに? どうしちゃったのさ?!
凄まじい迫力ッ! 真っ黒で禍々しいオーラみたいなのも出ちゃってるし!
ひょっとしてセバス、優しい言葉をかけられて覚醒しちゃった的な?!
だってこんなルート初めて見る!
「た、大した自信だな?」
おっとぉ~? レオン先生おののいてるぅー!
ビってる顔してるの隠せてないよ~?
イケメンが台無しだよぉ~?
やっちゃえ、セーバースー!
「(ポキポキ)」
で、でたー! 強者にのみ許された指鳴らし! こいつは、つおい!(確信)
あぁそうだよ!
そもそもここで終わりとかありえないだろ!
命からがらに生き延びるに決まってるだろって!
だってここで死ぬとか転生した意味なさすぎて、神様もおったまげちまうからな!
まっ。ギャルメイドにイタズラちゅっちゅする悠々自適なお嬢様ライフは送れそうもないけど、こればかりは仕方がないよな。
何処かの片田舎でゴスロリ爺さんと二人。のんびりスローライフと洒落込もうではないか!
なんてったって命あってこそ!
「ぐはぁっっあ」
ってあれ。セバス……?
「も、申し訳ございません。おじょ……ぅ……さ……ま」
瞬殺?! 指ポキポキしてたよね?!
強者にのみ許されたポキポキだったよね?!
「セ……バス?」
待って。い、息してない。死んだの?
「セバ……ス?」
…………あ、死んでる。
「……ひどい。なんで……なんでこんなことを……」
俺はどこかで、まだ──。此処がゲームの世界だと思っていた。
でも同時に──。この世界はどうしようもなく、現実だった。
そしてセバスの死の感傷に浸る間もなく、
目を背けたくなるような現実が差し迫る。
次は、俺の番──。
「……やだ。死にたくない。死にたくないよ…………」
セバスの死を目の当たりにして、途端に恐怖が襲ってくる。
体中がカタカタと震え、立つことすらままならない。
そんな、絶望的な状況の中で──。
「あらあら? 怯えちゃって、まあ? なんだか可愛そうになってきちゃうわね。殺人鬼もこうなってしまっては型無しね。早いところ終わらせてあげるのも、教師としての努めかしらねぇ」
あっ、この声は……。歩く爆乳フェロモンと言われた四大ヒロインのひとり。フェロモンむんむんのジャス・ミンミン先生だ!
「まーじありえないっしょ。どの口が死にたくないとか言っちゃってんの? ラクに死なせてもらえるだけ、レオン先生に感謝なさいっての!」
あっ、この声は……。ツンデレ最前線と言われた四大ヒロインのひとり。金髪ショートツインテールがキュートでチャーミーなエリリン・シンフォニーだ! 属性はギャル!
「先に手を出してきたのは、お爺さんのほうです。指をポキポキして
あっ、この声は……。ロリ神降臨と言われた四大ヒロインのひとり。カシス・オ・レンジちゃん。
唯一の中等部キャラクター!
「そんなことよりランチまだー? お腹空いちゃったぁ! ねぇレオーン! はーやーくぅー♡」
あっ、この声は……。最も太ももがそそるキャラと言われた四大ヒロインのひとり。ヒメナス・クラリネットちゃん。
王位継承権、第八位のお姫様属性持ちのチートキャラ!
そっか。主人公さまはハーレムルートを進んでいるのか。
終盤とも言える殺人鬼成敗イベントに四人のヒロインズを引き連れいているのだから、確定だろうな。
絶妙な
本当に、裏山けしからん奴だよ。
……はぁ。改めて思い知る。ここがゲームの世界であり、現実だと言うことを──。
だから尚更に思ってしまう。
どうして俺は、よりにもよってセツナ・ベアトリーゼに転生してしまったのか。
なにかの手違いではないのだろうか。
四大ヒロインズにイタズラする機会は本当に残されていないのだろうか。
今はなき、寂しくなった股間を助長するように、やり場のない思いだけがただただ膨張し続ける──。
……くそう。
そんな──。主人公さまに嫉妬心を覚えたところで──。
「怯えなくて大丈夫だよ。じっとしていればすぐに終わるからね」
気づいたときには耳元で囁かれていた?!
「あっ、ちょっ、らめぇっ♡」
たかしとしての理性は瞬時に消え去り、セツナ・ベアトリーゼとしての乙女心がイケボに支配される。
耳がぞくぞくしてやばい!
「……レオン先生♡ しゅき♡」
ちょ、待てよ俺! 何言ってくれちゃってんのさ?!
「すまない。君の気持ちにもっと早くに気づけていたのなら、こんな結末を辿ることにはならなかったはずだ。すべては俺の責任。恨んでくれて構わない」
……や、やめろ。耳元で優しく囁かないでくれ…………。頼むから……。
「せめて苦しまずに、一瞬のうちに──。(フーッ)」
「ひゃん♡」
あぁ、なんだろう。
存外、悪くはない最後かもしれない。
……だって。耳が……耳が幸せ過ぎてやばいのぉ♡
転生して一時間そこいらだけど、生前の三十幾年を思い返してみても、こんなに幸せな気持ちになれたことはなかったように思う。
語尾にハートマークを焚く感情なんて生まれて初めてだ。
なにかが満たされる不思議な感覚──。
「しゅきしゅき♡ レオン先生だぁいしゅきぃ♡ はぁん♡」
「どうか、安らかに──」
──グサリ。
それは──。命を取り除くためだけの優しい一刺しだった。
殺されたはずなのに、幸せな気持ちで満たされているのだから不思議なものだ。
レオン先生♡……。はぁはぁせんせぇい♡……。
はぁん♡ あぁぁあん♡
………………………………。
………………………。
……………。
……。
しゅきっ♡
きゅん♡
うっげぇ……。なんだよ、これ。ありえねぇだろうが……。
なにがありえないって、男にトキメいてまんざらでもない気持ちで最後を迎えているってことだよ……。気持ち悪過ぎる……。
って、あれ? なんで俺は意識があるんだ?
確かに死んだ……よな?
『……はぁ。次は上手くやりなさいよ?」
次? 次があるのか?
いや、その前に──。この声は誰だ?
『縦巻きロールをやめるのです。専任魔術講師レオン・ハート好みの淑女になるのです。清楚で尚且つ大人の色気を放つのです』
……は? なに言ってんだこいつ?
ていうか、誰?!
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