第11話 死にたくない


『はい。良い最終回でした』


 え、終わり?


『って、違うよね? そうじゃないよね? 何回同じこと言わせるの? 馬鹿なの? 死ぬの? ああ、言いつけ守らずに死んだからこうしてここにいるんでしたね? 無能が極まってやしませんか?』


 ああ良かった。普段通りのダメ出しが始まった!


 つまりは次があるってこと!


 不思議なもので最初の頃は次なんていらねぇ! って思っていたのに、今は次があることに心底ホッとしている。


 とりあえず次は、エリリンの攻撃を避けてみるか。それとも攻撃される前に話しかけてみるかな。


 ジャスミン先生は金太郎or神秘の泉で──。

 カシスちゃんは下手くそな三つ編みで──。

 ヒメナちゃんはカシスちゃんのおまけで──。


 恐らく、三人とはまたすぐに仲良くなれる。


 まっ何度だって繰り返してやるさ。本来、ギャルゲーとはそういうもの!


 トライアンドエラーの繰り返しだろうて!


『あぁ……。えっと、前向きになってくれているところ悪いのだけれど、当たり前のように次があるとは思わないでほしいのよね』


 おっ。今回は会話ができるのか?


 ん。ていうか今、心の中覗かれた?!


 まてまて。貴重な会話ができるかもしれない流れだ。だからここは、無難に──。


『どういうことですか?』


『あまり詳しいことはわからないのだけれど、終わりが来たらあなたは『たかし』に戻る。それだけは確かなことよ』


 ……え? わからないって、おまっ!


 それよりも身バレしているのか? ……いや、まぁ。当たり前か。


 相手はフザケた奴でも神的ななにかだろうし、俺は選ばれてここにいるわけだしな。名前くらい、当然知ってるよな。……うん。


『なにごともなく日常に戻るだけだから、悲観することはないわよ? 夢から醒める程度の感覚かしらね』


 そうだよな。思えば俺、死んだ記憶とかないし!


 そりゃまぁ、寝ている間にって可能性は微レ存かなと思ったりもしたけど。


 そっかぁ……。戻っちまうのか。……あの、毎日に…………。


『もしこの世界で生き残れたら、どうなるんですか?』


『兎にも角にも生き延びる為には魔術講師レオン・ハートに気に入られる事。これに尽きるのです。今回も魔道具を二つ用意しました』


 今回はよく喋るなぁと思ったけど、結局はこれ!


 一方的にブチるの反対! 


『縦巻ロールをやめるのです。魔術講師レオンハート好みの女性に。清楚系で尚且つ色気を放つのです』


 縦巻きロールは前々回切り落としてるからね? 決め台詞なのか知らんけど、大概にしろ!!












 +


「ハッ!」 


 五回目が始まったか……!


 ふむふむ。大方予想通り。

 前回と同じく、髪の毛と魔導具は巻き戻りなし。


 髪の毛はカシスちゃんに綺麗に編んでもらったままだしな。


 とはいえ、この髪型とはオサラバだ。

 せっかく可愛くしてもらったけど、中途半端な可愛さは恐らく逆効果だからな。


 今、必要なのはブサカワorダサカワ!


 だから崩す!


 ──ワシャワシャワシャワッッシャア!



 ダサ可愛セツナに戻ったところで──。


「そういや、おNewの魔導具を二つくれるって言ってたよな!」


 棚の上に不自然に置かれる二つの物。


 今回は、制汗剤と消臭スプレー。


 と、なにやらメモ用紙が貼ってある。


《消臭スプレーの容器は捨てない事。絶対の絶対に! それからアイロンは充電しておきました。が、電気代が勿体無いので使い終わったら必ず電源をオフにする事。


 以上二点。必ず守る事。》



 うんうん。詰め替え用ボトルで使うもんね!


 電気代もなぁ。近年のエネルギー問題は深刻だからなあ。度重なる値上げで家庭は火の車。電気代電気代って母ちゃんがうるさいのなんのって!



 …………って、おい。そろそろあれだぞ?


 勝手な想像で天界の女神的なやつってことにしてたけど、本当に、あれだからな?!


 今回の魔導具もド中古だし!

 

 どちらも残量スカスカの一割未満!


 当たり前に日本語パッケージだし!



 ていうかそもそもとして、この意味深なチョイスはなんなんだよ?!


 まさか臭いって言うのかよ?


「どこだ? 脇か? 脇なのか?」


 くんかくんか。違う。


「えっ、ここ?」


 くんかくんか。違う。


「ねぇ、ここ?」


 くんかくんか。違う。


「じゃあ、ここ?」


 くんかくんか。違う。


「それとも、ここ?」


 くんかくんか。違う!



 これと言ってべつに臭いところはない。むしろ、セツナ・ベアトリーゼってことを抜きにすれば、四六時中でも嗅いでいたい匂いだ!



 とはいえ油断は禁物。お次はベッドだ!


 人は寝ている間におよそ200mlの水分が失われるとも言われている……。


 くんか。くんかくんかくんか!


 うん。ええ匂いや。若いオナゴのエロい匂いがしてまっせ! セツナ・ベアトリーゼのベッドということさえ抜きにすれば楽園でっせ!


 と、なれば──。


 これらを消臭するのは得策とは言えないな。


 いや、でも。女の子同士は汗の匂いに敏感とも聞くしなぁ……。


 悩ましい。


 汗臭いは正義なのか否か──。



 ──トントンッ。


 えっ。嘘だろ? もうそんな時間かよ?


 俺は一時間もくんかくんかしてたってのかよ?


「お嬢様、至急お伝えしたい事がありますゆえ」


 ……orz。時間を忘れてくんかしていた模様。


「お、お入りなさい……」


「ハッ。専任魔術講師、レオン・ハートなる一行が正面玄関より、真っ直ぐこちらに向かってきております」


 

 対策を練る貴重な一時間が終わってしまった…………。









 +

 

 とはいえ前回と同じルートを辿る為、とりあえずセバスを逃す!


「お行きなさい! 時間はありませんのよ!」

「感謝の極み。うぅ……」



 さぁ、五度目のループを始めようか!



 




 



 +


「ど、ど、ど、どないしたんやセツナちゃん?! なんか気に触る事でも言ってもーたか? すまん。この通りやで?! ツンツン!」



 前回の結末が脳裏を掠めて、気づいたら涙を流していた。


 やれやれ。感傷的になっちまったらギャルゲリスト失格だってのに……。


 こいつは思ったよりもずっとツレーワ。





 ──もう、死にたくねぇな……。

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