第6話 バーバーセバス
『ねぇ、やる気あんの?』
結論から言えば死んじゃった。そんでまた、女神っぽい声の主からダメ出しをされるところから意識が始まったわけだが……。
『良い歳した大人が、耳フゥーの次はおっぱいに夢中になっちゃって恥ずかしくないんですか?』
…………いやー。それにしても今回は惜しかったな。
生存ルートに入ったものかと本気で思っちゃったからね。
ヒメナちゃんがお持ち帰りを後押ししてくれるかと思いきや、ぜんぜんそんなことはなくて。……あの子ね、ただ単にカシスちゃんの魔法を打ち消したかっただけだったのさ。
『死ぬか生きるかの瀬戸際のときに、おっぱいに夢中って正気ですか?』
そうなればもう、二発目を防ぐ術はなくて……。
ジャスミン先生が主人公さまに抑え込まれている間に、呆気なく二度目の『死の宣告』を放たれてジ・エンド。
もしお持ち帰りされていたら『あーんなこと』や『こーんなこと』になっていたかと思うと、悔やんでも悔やみ切れないよ……。
『今際の際の言葉がおっぱいでしたよね? 恥ずかしくないんですか?』
だから次こそは必ず!
お持ち帰りされてやる!
『いいですか? 目標を見失ってはいけません。おっぱいに埋まるのではなく縦巻きロールにさよならを告げて、淑女になるのです』
ふざけんな! いいかげんにしろ!
淑女になれなかったから、おっぱいに埋まったんだよ!
と、前回までの俺なら怒り出しそうなものだが、今は明確な目標がある!
そのためなら──。
『そうは言っても縦巻ロールのクセが強いんです。それはもうクルックルのクルンクルンですよ? いったいどうしたら……』
たとえどんなに理不尽だったとしても、言い返したりはせずに──。教えを請う!
『……はぁ。では、今回は特別に魔道具をさらに三つ用意しましょう。縦巻きロールにサヨナラを告げるのです。専任魔術講師レオン・ハート好みの淑女になるのです。清楚系で尚且つ色気を放つのです』
よし来た! 新たな魔導具三つGETだぜ!
今度こそちゃんとした魔導具キボンだぜ!
+
「おいおいまじかよ……」
四度目の死に戻りが始まって早々、新たに棚に置かれている物に絶句。
百円ショップにありそうなチャチィ
読み散らかした痕のある、くたびれた日本語表記のヘアカタログ。
残量一割ほどのヘアワックス。ドラッグストアに売っているリーズナブルなやつ。
なぁ、ほんと誰の? これ誰の私物?
魔道具じゃないよな?!
まぁ、ありがたく貰うけどさ?
タダだし、断る理由はないよ?
でもさ、釈然としないんだよ!
…………まぁいいさ。ペットルートを開拓するためなら、細かいことには目をつぶろう。
しかし──。鏡に映る姿に驚愕。
「金太郎じゃねぇかよ‼︎」
なんで切った髪がリセットされてないんだよ?
〝縦巻ロールにさよならを告げるのです〟
告げるどころか、もう無いから!
「金太郎だから‼︎」
とはいえ、部屋は元通り。
切り落とした縦巻ロールたちも無くなっている。セバスの死体も無ければ、死んだはずの俺も復活している。
死に戻りで世界は再構築されるのに、俺の髪の毛と化粧だけが再構築されていない。
導き出される答えは──。
探求した『美』だけは継続される。……とかか?
だとしたらこれは、厄介だぞ。
切った髪は二度と元には戻らない。
失敗は、許されない──。
+
とはいえ、このままではお持ち帰りはされないので、くたびれたヘアカタログをめくってみる。
お持ち帰りされたいのであればやはり、清楚系美少女になるのが最短ルートだろうな。
前回、主人公の野郎の邪魔さえ入らなければ、ゆるカールお姉さんの家へと、お持ち帰られていたからな。
つまりは、攻略すべきは主人公!
幸いにも金太郎と言えど、髪の毛はある。
むしろ金太郎だからこそのボリューム感。
ずっしりと重く、ヘルメットを被っていると錯覚させるような髪型。
ゆるカールお姉さんは言っていた。
『お家帰ったらブサ可愛な髪の毛も整えてあげるからねぇ! 毛先が変に揃っちゃってるから
可愛くなれる芽は残されている!
ってことで──。
ヘアカタログのショートカット特集から清楚系っぽい髪型を探す。
──そして見つける。
『三つ編みサイドアレンジ!』
これっきゃない!
+
ってことで──。
「セバス! セバスは居るのかしらのですわよ?」
今回もまた、なんのことなしに呼んでみると──。何処からともなく現れ、ふかふかベッドの前に跪いた。
「……お嬢様。馳せ参じまし…………た? ……ッッ⁈ その髪型はどうされたのでしょうか?」
前回も似たような反応されたよな……。その反応、けっこう傷付くんだぜ?
乙女心は純情なんだぜ?
まっ、今回こそ仕事しろよな‼︎
「イメチェンしたのですわよ。縦巻きロールにも飽きてきたところでしたからね」
「……左用にございますか」
「それで、髪の毛が少し重いから
そもそも自分で切ったのが間違いだった。
メイクアップアーティストもなんちゃらコーディネーターもいなかった。
でも、髪の毛が切れる人はさすがにいるはず!
「かしこまりました。それでは椅子の御用意をいたしますので、暫しお待ちください」
ほらっ! 話が通じた‼︎
最初からこうしていれば良かったんだ。
するとセバスは何処からともなく椅子を持ってきた。
おっ、仕事が早いな! 今回のお前、格好良いぞ!
「お待たせしました。お嬢様、こちらへ」
「仕事が早くてよろしいですわね!」
「勿体なき御言葉」
鏡の前に置かれた椅子に腰を掛ける。
手にはヘアカタログ。もはや抜かりはない。『この髪型にしてー!』って指差してお願いするんだ! 美容院で失敗しない必殺技!
「では、お嬢様。失礼いたします」
って、あ……れ? 鏡越しに映るのはセバス。手にはハサミを持っている。
待って。えっ、ちょっと……。
おまえが切るの?!
バーバーセバス的な? ぐるぐる回ってる感じ?
下町に店を構えて早五十年的な?
し、信じていいの?!
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