第11話 イタズラ好きな妖精レプラコーン

 湖からの帰り道、市場にいるケット・シーたちとお喋りして、また大量の食べ物や手作りの民芸品などをもらった。

 城に戻るとすぐに王様に頼んで絵を描くための道具を集めてもらい、夕食の時間まで優香は夢中になってスケッチをしていた。


 夕食の席には、王様の子どもたちがいた。

 第一王子のネイル様と第二王子のトーマス様だ。以前、わたしが来た後に生まれた子どもたちは、もう十歳と七歳だという。王様と王妃様の育て方がいいのか、二人とも素直で明るい子だ。


「最近、城にレプラコーンが出るらしいので、気をつけてください」とネイル様が言う。


「レプラコーン……聞いたことありますね。小人でしたっけ?」


「そう! あいつ、イタズラが大好きなんだ」とトーマス様が言う。

「おまえもだろ」

「ぼく、イタズラなんかしないよ」


「静かにしなさい」


 王様の一声でピタリと収まる。

 わたしは王子様たちに言った。


「イタズラ好きの小人かあ。ちょっと会ってみたい気もしますね」


 初めは黙って話を聞いていた優香も、子どもたちのおかげで緊張が解けたようで、自然と会話もはずみ、楽しい食事会になった。

 お風呂はどうするのかなと思っていたら、部屋にバスルームがついているのでお使いくださいとメイドさんに言われた。

(さすがに王族の風呂は無理だったか。残念だったね、優香)

 部屋に戻ると、人間用のパジャマが置いてあったので驚いた。赤いチェック柄の可愛いパジャマだ。

 わたしたちのためにわざわざ用意してくれたんだねと、優香が感激している。


 “シャムロックの間”には大きなベッドが二つあるので、ゆっくりと体を伸ばすことができた。

 大きな窓から見える満天の星を見ながら、今日あった出来事を話しているうちに、いつのまにか二人とも眠りに落ちていた。


 ◇


 翌朝、目が覚めると、サイドテーブルに置いてあった腕輪がなくなっていた。

 慌てて、ベッドの下やバスルームなどを調べたがどこにもない。


「どうしよう、大事な物なのに」

 

「これって、昨日王子様が言ってたレプラコーンの仕業じゃない? メイドさんたちに話して一緒に探してもらおうよ」


「そうだね!」


 部屋にあった呼び鈴を鳴らすと、すぐにメイドさんが来てくれた。腕輪がなくなったことを話すと、メイドさんの顔色が変わった。


「う、腕輪って、まさか、先々代の王キーアン様が残されたという魔法の腕輪のことでしょうか?」

「はい、そうです」


 キャアァアアアア!!!

 

 メイドさんが叫び声を上げると、大勢のメイドさんたちが駆けつけて来た。


「どうしたの!?」

「魔法の腕輪がなくなったんですって!! ああ、まさか国宝がなくなるなんて!」

「落ち着いて。皆で探しましょう」

「絶対、レプラコーンの仕業よ! あいつに決まってる!」

「きっとどこかに隠れてるわ」

「昨日、台所にいたわよ!」

「すぐに捜索を始めましょう」


 メイドさんたちが散り散りに飛び出していった。

 ひとり残ったメイドさんに、「素晴らしい連携プレーですね」と声をかけると、「わたしたち六つ子なんです」と言われて驚いた。


「だから、みなさん毛の色が似てるんですね」

 優香が感心したように言う。彼女たちは微妙に色の違うピンク色をしていた。


「わたしたちの両親も長年お城で働いていましたので、自然とそういうことに。では、わたしも探しに行ってきます」

 そう言うと、すごい勢いで走っていった。


 しばらくすると、メイドさんたちが戻ってきた。その手には首根っこを捕まれた小さなレプラコーンがいた。身長は10センチくらい。モシャモシャのあごひげ、とがった鼻、大きな目。服装は白いシャツに緑色のジャケットとズボン。手には緑色の帽子を持っていた。


(どんだけ緑が好きなんだ)


「リサ様、こちらでお間違いないですか?」

 別のメイドさんが腕時計を差し出した。


「はい、これです! ああ、見つかって良かったあ」


「良かったね、理沙」


「まったく、こいつったらワインの貯蔵庫に隠れてたんですよ」


 メイドさんたちはプンプンと怒っている。

 わたしはレプラコーンに聞いた。


「なんでこれを取ったの?」


「ふん。別に取ったわけじゃない。ちょっとびっくりさせようと思っただけだ」


「これは大切な物なの。見つからなかったらどうしようって、とっても悲しかったんだからね」


 レプラコーンはわたしの顔をチラリと見た。


「……そうなのか?」


「うん。これをくれたケット・シーはもう亡くなってしまったから、形見のようなものなの」


「それは……悪かったな」


「あなた、名前は? わたしは理沙よ」


「アルタンだ」


「よろしくね、アルタン」


「おまえ、怒ってないのか?」


「腕輪は無事だったし、謝ってくれたからもういいよ。アルタンの家はどこ? 家族は?」


「家なんかないし、家族もいない。おれ一人だ」


「ふうん。じゃあ、お城に住んでもいいか王様に聞いてみようか」


「な、なにを言ってるんだ!? そんなこと許されるわけないだろ」


「言ってみなくちゃわかんないよ?」と優香が口を挟む。

「わたしは優香。理沙の友だちよ。よろしくね」

 アルタンはフンっとそっぽを向いた

「かわいくなーい」

 優香がアルタンのほっぺをツンツンとつつくと、

「やめろ! 触るんじゃない!」と、小さな手を振り回して抵抗している。

 

 わたしはアルタンを捕まえているメイドさんに言った。


「王様のところに連れていきたいの」


 メイドさんは呆れたような顔をしたが、

「リサ様がそうおっしゃるなら」

 と、わたしの手のひらの上にアルタンをぽとりと落とした。



 王様と王妃様はわたしの話を面白そうに聞き、

「アルタンといったか。リサに免じて、罰は与えないことにするが、働かない者を城に置くわけにはいかぬぞ。おまえは何が出来る?」

 とアルタンに冷たい口調で言った。


「おれは靴職人だから、最高の靴を作れるぞ」


 アルタンは王様にも偉そうな口調で話すので、見ていてハラハラする。


「ほう。では詫びも兼ねてリサの靴を作ってみよ。出来が良ければ城で召し使ってやろう」


「わかった。明日の昼まで時間をくれ。材料はそちらで用意してくれるんだよな?」


「ああ、必要な物はメイドたちに言うがよい」


 アルタンが部屋を出ていくと、王様が大きな声で笑った。


「ハッハッハッ、やはり理沙は面白いな。まさかレプリコーンを雇えとは!」 


「すみません……ただ、ひとりぼっちで寂しいからイタズラするのかなって思ったら、なんか可哀想になってしまって」


「いや、あれはもともとイタズラ好きの種族なんだ。まあ、そういうわけだから、靴が出来るまでは城に滞在してもらえるか」


「はい。わかりました」


 部屋に戻ると、さっそくアルタンがやってきた。魔法を使ってわたしの足のサイズを測り、「いい靴を作ってやるからな」とにやりと笑った。


 











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