第7話 猫カフェを始めよう

 翌日は町へ出かけ、子どもたちと遊んだ。

 スコッチというドッジボールのような遊びや、かげふみのような遊びを子どもたちに教えてもらって走り回った。もちろん彼らの敏捷性にかなうはずもなく、ぼろぼろに負けたがめちゃくちゃ楽しかった。


「ねえ、リサ、ずっとここにいたら?」

 

 キジトラのショーンくんが甘えるように身体を摺り寄せる。

 くーっ。可愛い誘惑に負けそうだ。

 

 実際のところ、どれだけこっちにいても大して問題ないのかもしれない。現実世界ではあまり時間が経たないのだから。だけど、もし時間や空間が狂って、あっちに戻ったときに何十年も経っていたらと考えるとぞっとする。


「うーん、でも学校もあるし、お母さんが心配するからね」

「そっかあ、じゃあしょうがないね」


 しょんぼりと背中を丸めるショーンくんを見て胸が痛む。いっそ家に連れて帰るか!


「リサ、変な考えないでくださいね」

「えー、なんのことかなー」


 コルムはわたしの思考を読むのが上手くなった。

 わたしに付き合ってやったスコッチとかげふみでも大活躍してたし、あなどれんやつだ。


 

 家に帰る前に、城のなかにある王家代々の肖像画を見せてもらった。

 壁にかけられた大きな絵の中の彼らは、豪華な装束を身につけている。

 ハチ、もとい、リーアン王の肖像画の前で立ち止まる。

 真っ黒でふさふさとした毛並み。鼻筋から八の字に生えた白い毛。凛とした表情。鋭さを増した緑色の瞳。大人になったハチがそこにいた。


「やっと会えたね。立派になっちゃって……ワンピース着てみたよ。どう? 似合うでしょ?」


 肖像画を見上げていたら、自然と涙が出てきた。


「そろそろ帰るね」


 あなたの大切な国を守ることができて良かった。

 こうしてわたしの二度目のティル・ナ・ノーグ王国への訪問は終わった。



   ◇◆◇◆◇



 大学とドラッグストアのバイト、たまに通訳をこなす日常に戻ってきた。

 経済学部でマネジメントやマーケティングなどを学んでいるが、まだ将来何をやるか決めていない。 

 

 大学三年のとき、友人の佐藤優香がわたしに言った。


「猫カフェとかは? リサ、大の猫好きなんだし、趣味と実益を兼ねていいんじゃない?」

「なるほど、そういう手があったか」

 

 なんで思いつかなかったんだろう。急に目の前が開けた気がした。


「もちろん、経営は難しいだろうけど、リサは何か国語も喋れるんだし、外国人観光客の集客も見込めるでしょ? 通訳で知り合った人たちにも宣伝してもらえるし」


「ふんふん、いいね!」


「それで、わたしも雇って欲しい」


「へ?」


「リサとなら、うまくやれそうな気がする。お願い! 社長はリサでいいから!」


「うーん、まあ、確かに優香となら問題なくやれそうだけど」


「良かった! じゃあ、これからよろしくお願いします!」


 優香に右手を差し出されて、わたしも笑いながら握り返した。


 それからは二人で事業計画書を立て、事業プラン名、事業概要、会社概要、経営理念や事業の目的、事業内容の詳細な説明、資金計画などを記載していった。

 他にも、動物取扱責任者、食品衛生責任者、防火管理者といった資格を取らなければならない。これは分担して取ることにした。

 一番肝心な資金調達は、まかせて欲しいと伝えた。


「いいの? まあ、わたしは全然お金ないんだけど」


「バイトのお金を貯めこんでるから大丈夫よ」


「きゃあ、リサったら男前! 頼りになるぅ」


「あははは……」


 そう。わたしにはお金がある。なぜかというと――


 ケット・シーの国から帰ってきた次の日、ハチにもらったワンピースを洗おうとポケットを裏返すと、小さな金の粒がこぼれ落ちた。


「わ、なにこれ、ラッキー!」


 当然、有り難く頂戴した。


 ところが、それから! ワンピースのポケットの中に小さな金の粒が入っているのだ。毎日、一粒。これが積み重なるとどうなるか。24金1グラムの買取価格8千円として、一粒2~3グラムはあるから、恐ろしい計算になる。

 

 わたしは恐れおののき、すぐさま母に相談した。母も驚いてはいたが、

「王様を助けて、今度は大事な湖を守ったんだから、これくらい貰っていいんじゃない」


「えー、いいのかなあ」


「ちゃんと無駄にせず、有効に使えばいいのよ。多すぎると思ったらどこかに寄付してもいいんだし、有り難くいただいちゃいなさい」


「そうだね。わかった」


 早速、有効活用にと家賃の全額負担を迫られた。

 しょうがない。これも親孝行だ。

 めんどくさいから、毎月母に金を何粒か渡すと、いそいそと売りに出掛けている。

 












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