第7話 命

 男は家に帰るため、車を走らせていた。すると誰もいない筈の車の後部座席から、

「おい、約束を破ったな。」

 と、声がした。男はミラーを覗き込み、驚いた。何時ぞやの死神が座っていたからだ。男が震えていると、死神は、

「まあ良い、お前にはついてきてもらわなければならない所がある。行こうか。」

 と言うと、指を鳴らした。男は目の前が真っ暗になった。



 男が目を覚ますと其処は薄暗い洞窟だった。男は灯りが集まっている方へと歩いていった。そこには多くのランプが吊り下がっていた。男が驚いていると、

「これはな、人の命だ。」

 と、死神に話しかけられた。男は何故こんなところに連れてきたのか尋ねると、死神は

「まぁ、ゆっくり話を聞け。いいか、このランプの火が消えると、人は死ぬ。例えば、その消えかかっている薄汚れたランプはだな、治らない病気で苦しんでいる人のだ。それに、あの綺麗だが時折小さくなる火のランプはだな、自殺で悩んでいる学生だ。信じられないものを見たかもしれないが現実なんだ。ついてこい。」

 そう言うと、男を連れて歩き出した。



 2人が着いた所には、二つのランプがあった。一つは薄汚れてはいるが煌めいているランプ、もう一つは綺麗だが今にも消えそうなランプだった。死神は男に、

「この煌めいているのはお前が治した社長の命、もう一つはお前の命だ。あの時、お前が上下を入れ替えたせいで寿命も入れ替わったのだ。火が消えるが最後、お前は死ぬ。」

 と、言った。男は死神に、

「俺は死ぬしか無いのか?」

 と尋ねると、死神は、

「いや、方法はある。このロウソクに今消えかかっているランプから火を移せばお前の寿命はこのロウソクが継ぐ。」

 と言って、懐からロウソクを取り出し男に手渡した。



 男は震えながらもロウソクを受け取った。今の自分の寿命に新たな寿命を近づけ、火をつけようとしている。しかし、恐怖のせいか、震えていて上手くいかない。死神は、

「ほうら、ほうら、きえるぞ、火がきえるぞ。」

 と言って煽ってくる。それでも男はロウソクを火に近づける。冷や汗が止まらない。1時間経っただろうか、実際は5分かそこらだった。しかし男にはそれぐらい長く感じた。遂にロウソクに火がついたのだ。男は無事生きることができたのだ。死神はがっかりそうに男を見ていた。

 男は安心し、緊張が抜けた。すると気が緩み、手からロウソクが滑り落ちた。そして、男の冷や汗で出来た水溜まりに落ちて火が消えた。男は驚いた。ふと、死神の方を見ると薄ら笑っていた。



 男が気づくと、落下していた。そうだ。俺はハンドル操作を誤り、立体駐車場を突き破ったんだ…もう死ぬのか俺は…


 男の車のバックミラーには死神の笑い顔が映っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新現代版「死神」 鮭芝サカナ @343sakana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ