第13話 光る目
天井裏で仲間が仕事を終えるのを待っていた錬金術士は、意外な展開に驚愕していた。
若いとは言え、
衛兵を呼んでいるのだから、絞殺や刺殺などでの殺害では無いのだろう。
ベッドの脇では、衛兵とアイラ、メイアと料理人が立ち合って、現場検証が行われていた。
見る限り、ベッドでの行ない以外に特に争った形跡はないし、言い争った話も無かった。
傷口も血痕も、絞殺痕や打撃の形跡も無く、首もとに目立つアザはキスマークだと思われる。
「二件とも状況は似たりよったりだな。この酒は?」
「何か、媚薬の入った酒だと言っていたわ。私は怖くて飲まなかったけど」
「私の所でも飲んでたわ」
メイアはアイラに話を合わす事にしている。
衛兵の視線に料理人が『確かに』と頷いていた。
「どうやら、たちの悪い媚薬が広まっているらしいですな!」
衛兵は、酒の匂いと男の口からする匂いとを嗅いで、そう結論付けた。
酒の匂いは、死後にアイラが流し込んだ物だ。
「あなた達は、確か【ナイトメア】でしたな?街中ではかなり有名人ですよ、男をタブらかす【魔女】として。で、こちらの男達は?」
「ワーカー仲間で【ライカの灯火】ってチームの二人です。あと、もう一人居た筈ですが、老人なので・・・」
「そうですなぁ。薬をヤらなくても腹上死しそうな話だ」
衛兵は、彼等の服からワーカーカードを取り出して確認している。
「今回の事は、明確に【事故】ですな。薬を持ち込んだのも服用したのも彼等だし、ギルドで調べれば誘ったのも彼等だと判明するでしょう」
「愛する人が、こんな事になるなんて、とても淋しいですわ」
「男性と関係を持つのが怖くなりますわね」
悲しむ二人に、衛兵も同情した顔を見せる。
検証が終わり、数人の衛兵で彼等の死体と装備を片付けていくのと、それを見送るアイラとメイアが廊下から見えた。
『なんと!上手く衛兵を丸め込んだのか?』
運び出される二人を、廊下の天井裏で見ていた錬金術士が、動揺の為に動いたのだろう。
廊下で見送っていたアイラとメイアの視線が、彼の方に向いた。
覗きには鏡を使っていたが、視線が合った事を感じた錬金術士は、大急ぎで屋根裏から逃げ出したのだった。
『なんだ、アレは?目が光っていたぞ!まるで魔族じゃないか』
彼は、魔族や魔物の多くは暗闇で目が光ると、本で読んだ事があった。
実際に魔族に会った事などないが。
宿屋の屋根に出た錬金術士は、身を
誰にも気付かれては居ない様だ。
宿の前では、チームメイトの死体を乗せているであろう衛兵の馬車が出発していく。
「年寄りを残して、若い者が先に逝ってどうするのじゃ?」
息子の様にも思っていた二人に対して、錬金術士が感傷に浸っていると、突然、彼の背後から声がした。
「じゃあ、後を追ってあげたら?」
「コイツは食べちゃっても良いんだよね?」
振り返った錬金術士の背後に居たのは、アイラとゼーラだ。
「お前達、どうしてココに居るんじゃ?」
「こんな老人は趣味じゃないでしょ?」
「背に腹は変えられないし、ミィヤにも喰わしてやらないと」
老人と彼女達の会話が噛み合っていない。
次の瞬間に錬金術士が見たのは、ナイフを片手に急接近するゼーラの姿だった。
◇◇◇◇◇
彼女達は、連れ込み宿には泊まらず、自分達の宿屋に帰っていた。
普通に考えても死者の出た現場で寝たくはない。
「で、骨とかは、どうしたの?」
「装備に繰るんで屋根裏に突っ込んで来たわ。血抜きもしといたし、改装とかで見付かる頃には私達も街には居ないでしょ」
アイラから報告を受けたメイアが、ミィヤを撫でながら聞いていた。
「空でも飛べないと血糊は見付からないし、雨が降れば流れるでしょ」
「ミィヤ、お前も人間の味を覚えちゃったのかぁ、可哀想に」
「ミィ~」
魔族や魔物の目が光るのには諸説ある。
目から魔力を放って暗闇の物を見るのが、一部の人間には光に見えるとか。
その光が見える者も、先祖に魔族の血が混じっているとも言われているが、詳細は判明していない。
ただ、『視線を感じる』と言う話が人間にも有るので、人間にも似た能力が有るのかも知れない。
「これで、暗殺者は十人を越えるわよねぇ?いつ終わるのかしら?」
肉屋と料理人:2人
ワーカー崩れ:6人
ライカの灯火:3人
既に11人の暗殺者が送り込まれている。
「そう言えば、ワーカーのカミユに頼んだギルバートの件は、どうなったの?」
「流石は大手の商会だけあって、聞き込みは困難らしいわ。ただ、ギルバート自身は情報屋と繋がっていて、警備に役立てていると有名らしいわよ」
肉屋の一件の後で、ワーカーの中でも情報通でナイトメアとも懇意にしているカミユに、クライマーの一員らしいギルバートと言う男の調査を頼んでいたのだ。
ギルバートが情報屋を商会の警備に役立てているのは、秘密でもないらしい。
「警備の情報屋とクライマーの連絡員が混ざっている訳ね?関係者の口が固いのは、商会としての規約なのか?クライマーとしての掟なのか?判断は難しいわね」
「でも商会の評判は、取引先からも商売仇からも良いわよ。これはギルバートだけがクライマーと絡んでいて、商会を隠れ蓑にしていると考えるべきなのかしら?」
商会自体がクライマー組織と同じとも考えられたが、もしソウならば少しは悪い噂がある筈なのだ。
兎に角、評判も良く、物証もないギルバートに手を出すのは騒ぎになる。
「この前の話で、暗殺者のみを処理してクライマーの組織には関わらないとしていたから、カミユには手を引いてもらいましょうよ」
カミユに依頼した後で、潜入魔族から得た情報では、依頼者の投獄で追加の暗殺者は送り込まれる様子はない。
末端の暗殺者だけなら兎も角、組織構成員に手を出したら、組織の敵対者として暗殺者が追加されるだろうが。
「早めに帰って来たから、暇になっちゃったわね?」
「そうね。もっと楽しませてくれて、朝頃に実行してくれたら良かったのに」
「あの爺さん、なんで居たんだろう?」
彼女達を含め、もう誰も計画の詳細を知る事はできない。
「そうね。覗く趣味とか有るのかしら?老人だし、歪んでるのかも?」
「アイラもメイアも他人の事は言えないよ」
「あらっ?飢えた牝犬には言われたくないわね」
愛欲に正直な彼女達は、悪口を言い合いながらも、その顔は笑っていた。
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