第7話 山賊討伐

 ワーカーの資格には、幾つかの種類がある。

 中でも物騒なのが【処刑】という資格だ。


 これも当然、依頼された対象のみの殺害だが、妨害する者も【共犯】として処分する事が許されている。


 この手の依頼は基本的に軍から出され、軍の活動と一緒に行われる為に、行動の制限がある。

 要は軍の人数不足を補う為の依頼だ。


 この資格を持てるのは、過去に軍に所属していた者か、チームの一員としてコノ手の依頼に参加した経験の有る者のうちギルド長が認めた者だけだ。


 チームナイトメアは、ギルドの執務室に呼び出されていた。


「是非とも、ナイトメアの方々にも山賊討伐に参加していただきたい」

「そりゃあ、資格も持ってるし、ギルド長のお願いだけど、私達は夜型だし団体行動はねぇ」

「勿論、今回の依頼は【夜襲】ですし、単独行動も許可してもらいます」


 ギルド長はかなり必死だ。

 ワーカーの役目は、内部での撹乱かくらんで話がついているらしい。


「なんで、そこまでするの?有資格者なんて他にも居るでしょうし、それに山賊なんて以前に壊滅させたじゃない」

「今の当ギルドには有資格者が僅かしか居ません。軍の動きが漏れてるらしく、他から有資格者を集める時間も無い。そもそも『以前』って何十年前ですか?」


 ギルド長の眉間にシワが寄る。

 ナイトメアの面々とギルド長では認識がズレている様だ。


 時おり発生する軍の依頼に対して参加する数が少ないのは、ワーカーギルドの立場を悪くするので、ギルド長としても必死なのらしい。

 夜襲を行うのも、情報漏洩の為に、山賊が拠点から移動する前に攻めるからだ。


 たった三人でオークやオーガを複数倒してくる彼女達にとって、人間など物の数ではないだろうし、過去にもコノ手の依頼に参加しているのだから、不可能ではないのだろう。

 ただ、ギルド長をやっているダート・リバルスも、その『以前』の時は参加できなかったので、彼女達の戦いかたを見てはいない。


「仕方ないわねぇ。で、ワーカーは何人なの?」

「資格無しも含めて合計10人です。チーム数3です」


 1チームに一人以上の有資格が居れば、依頼は受けられる。


「人手不足なのね?有資格者は?」

「・・・・・五人です」

「えっ?つまり、ナイトメアを除いたら二人しか居ないの?」

「・・・はい。・・申し訳ありません・・・」


 前回の依頼から三十年前後経っているからと言っても、この手の仕事の資格者は、かなり激減しているらしい。


「ギルド長も大変なのね。貴方だから引き受けるけど、コレは貸しだからね」

「分かっています。今後も色々と便宜をはからせていただきますよ」


 資格者の数や経験者の数で結果が左右されると言っても過言ではない。

 その過半数が【ナイトメア】と言うのは、それだけ負担が増えると言うことだ。


「『急ぎ』って事は、討伐作戦は今晩なの?」

「仰有る通りです。これから軍で作戦会議があります」

「よほど情報が駄々漏れなのね」


 ナイトメアもギルド長も、一斉に溜め息をつくのであった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「・・・・・以上が、拠点の位置、最重要目的の人物、作戦の展開予定だ。質問の有る者は?」

「はいっ!ワーカーの役割は、先行潜入と撹乱だけど、その賞金首を殺っちゃっても良いの?」


 挙手して質問したのはゼーラだ。


「元気な御嬢さんだな。無論、可能なら構わんが、警護も多いだろうから命が幾つあっても足りないぞ」

「うん!無理はしないよ」


 発言したゼーラに視線が集まるが、それは一番幼く見える彼女の身を心配する視線へと変わっていった。


「おい、あんな子供を参加させて大丈夫なのか?」


 だが、ギルド長の認可がある以上、誰も口出しはできなかった。


 まず、身軽なワーカーが山賊拠点深くへと潜入し、鈍足な鎧兵百人が包囲を完了した後に、火屋を合図に作戦が開始される。

 山賊の拠点は、廃坑になった鉱山跡で、一つの山全体となっている。


「アイラ、ちょっと気になる匂いが有るから、別行動をとるね」

「ゼーラの鼻が、何かを嗅ぎ付けたのね?どうせ個別に動くんだから構わないけど」

「じゃあ、行くね」


 山賊の拠点へと向かう途中で、ゼーラが方向を変えた。


「私は先行して、中心部へ行くわ」


 メイアも単独行動の為に、真っ暗な空へと姿を消した。


「まぁ、今回は連携が必要って訳でも無いしね」


 アイラもまた、夕闇に溶ける様に消えていった。




 例え交代で見張りに立っていても、夜には寝ている者が居る。

 メイアの行動は、合図の前から始まっていた。

 彼女は夢を見させるだけではなく、夢から覚めない様にする事もできたのだ。

 山賊の寝室に現れては、布で口を塞いで喉笛を切り裂いていく。


「こんなのは、美味しくもないんだけどねぇ」


 喉を掻き切る時に、多少は暴れるが、同室の者は物音に起きる事ができない。

 仕事をした証拠に、殺した相手の左耳を切り取って、腰袋に入れる。後で文句を言われない様にだ。


 こうして一部屋一部屋と片付けていくが、交代の時間にならないせいか未だに騒ぎにはならない。



 そうして、数部屋を片付けた頃に山賊拠点の包囲が終わり、一点を皮切りに、連鎖反応の様に火矢が放たれていく。

 上空から見れたら、花火の様で、さぞ美しい炎の芸術だったろう。


「襲撃だ!みんな起きろ!」

「おいっ、コイツら死んでるぞ」


 襲撃で騒ぎになったアジト内で、起きてこない者を呼びに行った山賊が、腰を抜かしている。


「敵は既に内部に居るぞ!気を付けろぉ」


 内部では、一部でパニックが起きはじめていた。


「攻撃が始まったのね。じゃあ、もう逃げるとしましょうか」


 メイアは戦いは苦手だ。だが既に彼女は30人程を葬っていた。

 戦歴としては十分だろう。


 メインの坑道は、馬車が通れる程に広くて高い。

 その天井付近を、飛ぶように脱出する何かが有ったが、山賊達は外部の兵士にも気を取られて気が付かなかった。




 装備がバラバラで、山賊と区別のつかないワーカーチームは、首に赤いスカーフを付けていた。

 軍の兵に攻撃されない為の物だ。


 灯りはあるが、薄暗い坑道内を、黒い影が移動していた。

 時おり、赤い布と銀色の剣が見え隠れするが、動かなければ意識にとまる事はない。


 坑道の中で、右往左往している山賊達が気づかないうちに、一人、また一人と、その影に飲み込まれていく。

 先程まで後ろにいた仲間が、いきなり姿を消したのだ。もう、何が何だか分からない。


 既に兵士が坑道に入って来ているので、後ろにばかり気を取られてはいられない。


 更には各所で爆発も起きているらしい。空気に砂ポコリが混じっている。


「チクショウ!大将は何処だ?どうすりゅあ良いんだ?」


 急な奇襲のせいか、命令系統はズタズタになっている様だ。


 僅か三時間で、拠点に居た山賊は、一掃されたのだった。




「おかしい!賊のリーダーが見つからない」


 軍の司令官が、各所からの報告を纏めて頭を抱えていた。

 山賊は二百人以上が殺されたが、肝心の首領達が見当たらないのだ。


「雑魚をいくら殺しても、彼奴等を取り逃がしては、直ぐに再編成されてしまう」

「まさか、隠し部屋か何かに隠れているのでしょうか?」


 司令室に使っているテントでは、更なる調査隊の派遣を指示する事に決まった。


「え~っと、一番偉い人はココかなぁ?」


 そんなテントに現れたのはゼーラだ。


「御嬢さん、今は立て込んでいるんだ。後にしてくれないか」

「いや、賞金は司令官にもらう様にって聞いてたんだけど?」


 彼女がテーブルに上げた袋の中から、五つの生首が転がり出た。


「血の匂いがしてたから行ってみたら、なんか抜け穴があったみたいで、コイツらが居たんよ。確か賞金首だよね?」


 確かにソレは、賞金も掛かっている山賊の首領達だった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌朝、アイラ達は宿屋に帰っていた。


「賞金ゲット、おめでとう」

「よくやったわね、ゼーラ。でも、よく分かったわね。確か【血の匂い】とか?」

「あれは、嘘だよ。本当は【お金の匂い】」


 実際、金や銀にも匂いはある。


「首領が逃げる時に、軍資金を全部持ち出したんで、あの場に不似合いなほど匂ってた。特に銀貨がね」

「確かに、お金を持って討伐に行く兵士も居ないだろうしね。それにしても銀かぁ」

「アンタ達は銀が苦手だからねえ」


 金貨銀貨を持ち出そうとすれば、擦れ、削れ、微粒子が空気中に漂う。

 ゼーラとアイラは、種族的に【銀】には特に敏感だ。


「ちょっと待って。ゼーラがテントに生首を持ち込んだって聞いたけど、軍資金の話は耳にしてないわよ」

「金貨銀貨は重いから、埋めてきた。運ぶのをアイラやメイアに手伝ってもらいたくて」


 アイラとメイアは、開いた口が塞がらなかった。


「・・・・ゼーラって、意外と悪い女よね?」

「いや、私は山賊を倒した時に拾っただけ。持主が居ない拾った物は私の物。手伝わないなら分けてあげない」

「「て、つ、だ、い、ま、す」」


 大富豪のゼーラには、誰も逆らわなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る