第5話 吸血鬼と夢魔

 地球の人間は、体重50kgの人で4リットル弱の血液を持ち、体液の20%を急激に失うとショック死の恐れがあり、ゆっくりでも30%を失うと生命の危機だと言う。


 それ故に献血は、諸外国では体重50kg以上の男女から450mL~500mLを採血をしているが、日本では200mL献血と400mL献血の2種類に限られている。


 この様に、生命の営みに不可欠な血液だが、蚊の様に多くの昆虫やヒルの様な環形動物、蝙蝠の様な哺乳類の一部までもが、他者の血液を吸う行為を行っている。



 オカルトやファンタジーでは、生気や魂を吸い取るモンスターの一部に、【吸血鬼】と呼ばれる知性を持った人型のキャラクターか登場する。


 一部には、吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になると言われているが、古くは吸血鬼の血を飲むと吸血鬼になるらしい。

 これは、人魚の肉を食べて不老不死になるのに近い。


 他に、吸血鬼の特徴として日光に弱い、銀やニンニクの様な殺菌成分に弱い、心臓に杭を打って殺す、霧や蝙蝠になる変身能力、鏡に写らないなど多数有る。




「貴方なら、もう少しイケるわね?」

「なんて凄い女なんだ!全てを吸い取られそうだ」


 蝋燭灯りの薄暗い部屋で、体格の良い男がベッドに仰向けに寝ており、それに女が馬乗りになって身体を動かしている。

 時おり、女の方から男の口や首元にキスをしているのを見ても分かる通り、既に男の方はなすがままである。

 両者共、苦痛と快楽の混ざった様な表情をしている。


 客観的には人間の性交渉の様に見えるし、男の方もソウ思っているが、実際には男の首元に黒いキスマークができ、その血液が減少しているのだった。


 伝説にある様な鋭い牙ではない。彼女は蚊の様に小さな針の様なものを無数に突き立て、首元から血を吸っていたのだ。


 実際、太さが70マイクロメートルの針では痛覚を刺激しにくいので、医学界ではソノ特性を利用した無痛注射針を開発している。

 また、吸血鬼に血を吸われると気持ち良いとも聴くので、ヒルの【ヒルジン】の様に麻酔効果などがある液体を使っているのかも知れない。


「アイラ、もう限界だ。勘弁してくれ!」

「そうね、腹上死されても目覚めが悪いわ」


 ようやく女から解放された男は辛そうだが、女の手を離さないところをみると、嫌いではないらしい。


「毎回だが、凄いな君達は。一度味わうと他の女がつまらなく感じるよ」

「メイアと、どっちが良かった?」

「勿論、君の方さ」


 実際には、アイラとメイアは容姿や性格、愛し合い方すら違うので、どちらも『凄い』のだけど比較が出来ないのだ。


「ふんっ、嘘つきね」


 横に寝て、男の胸を触りながら、アイラは微笑みを浮かべている。

 快楽対象としてだけの相手だが、褒められると嬉しいものだ。


『心臓の鼓動は大丈夫ね』


 口には出さないが、男の身体を気にして確認をする。

 例え愛していなくとも、好きなタイプでもない男性と交わるほど、彼女もスレてはいない。


「喉が乾いたでしょ?」

「ありがとう」


 アイラは、ベッドの脇にある水差しからカップに水を汲み、かろうじて上半身を起こした男に手渡した。

 複数の意味でも、失った体液の補充は必要だ。


「そう言えばゼーラちゃんは、この手の誘いにのらないし、話も聞かないね?幼いから?」

「ベッドで、他の女の話はしないで・・・って言いたいけど、ゼーラは激し過ぎて、相手の耳とか喰い千切っちゃうから、気に入った奴隷相手とかしか出来ないのよ」

「うっひゃあ~、それは怖いな」


 ベッドでスプラッターは勘弁である。

 そもそも、メイアの名前を出したのは彼女の方なのだが、男が前振りしてしまったのも確かだ。


「だから、その分を食欲で抑えてるんで、食費を負担してもらってる訳よ」

「その割りには、ゼーラちゃんは太らないね?」

「その分、仕事で運動してるからね、あの娘は」


 寂しい女は太ると言う。

 欲望やストレスの発散を、食欲で満たす女性は多いのだ。


 ゼーラの場合、移動方法や仕事の時の荷物持ちの関係で、一番運動量が多いのも確かだが、身体的な要因も少なくない。


「けっこう絞り取ったから、二三日は仕事を控えた方が良いわよ」

「ああ。前に無理したら、倒れたからな。ホントにお前は恐い女だよ」


 彼女が絞り取ったのが、何なのかは、言わぬが華だ。男の方には自覚が無いのだから。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 殆んどの高等生物は、睡眠を必要とする。

 虫や魚でさえ、短いが睡眠をとっているらしい。

 睡眠時には副交感神経が活発に働くらしいので、身体のメンテナンスに必要な時間なのだろう。

 脳に関しても、記憶の整理やストレス緩和に睡眠が関係しているのが知られている。


 高等生物は睡眠不足になると、機能低下や機能障害が発生し、最悪は生命の危機に及ぶ。


 また、睡眠時は神経系が緩慢になるので、外部の状況に対応できず、災害や外敵からの避難が出来ない危険な状態とも言える。


 取らなければ死に、取れば無防備な睡眠は、高等生物のウイークポイントと言えるだろう。


 このウイークポイントを突くとされる悪魔が【夢魔】と呼ばれ、どの様な手段か不明だが、人間の夢を操作して衰弱させるらしい。

 【夢魔】には、大きく二種類が有り、【悪夢】をみせるものと、【淫夢】をみせるものが有る。

 このうち、【淫夢】を見せるものを【サキュバス】や【インキュバス】と呼び、現実的には夢精や睡眠姦の古代解釈と言われている。


 ファンタジー世界には、この夢魔が存在する。

 護符や結界など、何らかの守りがないと、この悪魔には抗えない。


 生物は寝落ちする事がある。

 それは人間も同じで、電車や机でも寝てしまうのだから、ベッドでなら当然の成りゆきだろう。

 低血圧でもなければ、目覚めた瞬間は、明確に覚えているものだが、寝入った瞬間を感じられる者は皆無だろう。

 その夢が、現実の続きだったりしたら、その区別はつくのだろうか?


 彼が寝落ちしたのは、二発目の直後だったのだが、夢の中でも女の上だったので気が付いて居なかった。

 頭を豊満な乳房に顔を埋めたまま、夢の中に埋没しているのだが、その下半身は痙攣する様に小刻みに動き続けていた。


「夢の中では、ケダモノだねぇ」

「・・・・・・」


 女が白目をむいて何度も痙攣するのを激しく犯し続ける夢の中で、男も何度目かの放出を行っている。

 夢の中も、性交の途中も、共通して思考が麻痺しているので区別がつかない。


 実際の射精は既に尽きているが、大きさこそ違え夢と連動した腰の動きが、男の体力を奪っていく。

 寝惚けていようと、実際に動けば体力を消耗する。

 寝苦しくて寝返りを繰り返す様なものだ。


「これ以上は、もう危ないわ」


 メイアは男の頭を撫でて、夢の中でも寝落ちさせてやる。


「よく頑張ったね、坊や」


 見た目はメイアの方が若いが、実年齢は違う。

 精神的にはショタコンとも言えるだろう。


 淫魔は、肉体だけではなく、感情も貪る。

 これを何日も続ければ、肉体的には衰弱し、精神的には人間の思考を失った廃人へと堕ちていく。


 だが、相手が複数居るならば、一人の全てを喰らい尽くすより、少量づつ日替わりにした方が長続きするというものだ。


 サキュバスの血を引くメイアなら娼婦館もお似合いだろうが、やはり好みのタイプを選べる今の方が楽しい。


「最高だったわ、貴方」

「君こそ、俺の天使さ」


 翌朝は、疲れ果てた演技で男の目覚めに合わせると、彼も笑顔で返してくれる。

 たとえ肉体だけの関係でも、次回があるかも知れないので関係維持は必要だ。


「貴方とずっと一緒に居たいけど、凄すぎて死んじゃいそうだから、また今度ね」

「ああ、俺の方もスッカラカンだよ。暫くは腰も立たない」


 本当に死にそうなのは男の方なのだが、二重の意味で『男は立てて役にたつもの』なのは経験で知っているメイアだった。

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