好いホラーは生きているものの《におい》をともなう

小学五年生の頃、母親の降りまわした中華包丁があたって、できてしまった頭蓋骨の穴。漫画雑誌を詰めこんで塞いだことで一命を取りとめたが、それからというもの、幽霊が視えるようになってしまう。

霊視で生業を立てながらも、自身の視界に映る幽霊が本物であるはずはないと、彼は言い張る。……何故ならば。

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素晴らしい叙述トリックについては他の御方が触れておられるので割愛。

においのするホラーは良質! という持論があるのですが、それは血潮の腥臭等であってはいけないとも想っています。誰もが日常のなかで嗅いでいる臭い……雨が続いた後の畳のにおいだとか、他人の家に踏みこんだときに一瞬だけ感じる臭いだとか、虫がはさまって死んでいるような古書の頁をめくったときの匂いだとか。生きているものがいるからこそ、死んでいるものがいる、という実感。
こちらの小説はまさにそうしたにおいがつんと漂ってくる、至高の小説でした。

この夏、ぜひともひとりでも多くの読者様に読んでいただきたいです。

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