幼い頃の事故がきっかけで、霊的なものが見えるようになってしまった男性のお話。
もうゴリッゴリのホラーです。えーっなにこれすっごい怖い!
いや、主人公の語り口そのものはなんだかうっそりぼんやりしているんですけど、それがかえっておっかないというか……。
語られている内容とのギャップも相まって、なんとも独特かつ強烈な印象を与えてくれるお話です。
冒頭のエピソード、妙に具体的な描写がとても好き。
中華包丁とか漫画雑誌とか、それ自体はそんな特別でもないはずの小道具が、強烈なインパクトでもって脳裏に刻まれるこの感じ。
一瞬で物語に引き込まれました。
あとはもうネタバレが怖いので詳しくは触れられないんですけど、物語の締め方が大好きすぎて……。
ものすごく綺麗にキュッと纏まる感じ。
しかもそれでいて、もう一段ガクンと落ちるような怖さみたいなものまであって、思わず膝を打ちたくなるような思いでした。
大変素敵なホラーです。
分量も約3,500文字と短く、さっと読めちゃうのでおすすめ!
小学五年生の頃、母親の降りまわした中華包丁があたって、できてしまった頭蓋骨の穴。漫画雑誌を詰めこんで塞いだことで一命を取りとめたが、それからというもの、幽霊が視えるようになってしまう。
霊視で生業を立てながらも、自身の視界に映る幽霊が本物であるはずはないと、彼は言い張る。……何故ならば。
…………
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素晴らしい叙述トリックについては他の御方が触れておられるので割愛。
においのするホラーは良質! という持論があるのですが、それは血潮の腥臭等であってはいけないとも想っています。誰もが日常のなかで嗅いでいる臭い……雨が続いた後の畳のにおいだとか、他人の家に踏みこんだときに一瞬だけ感じる臭いだとか、虫がはさまって死んでいるような古書の頁をめくったときの匂いだとか。生きているものがいるからこそ、死んでいるものがいる、という実感。
こちらの小説はまさにそうしたにおいがつんと漂ってくる、至高の小説でした。
この夏、ぜひともひとりでも多くの読者様に読んでいただきたいです。