幽霊を否定するのは、既に信じてしまっているから

幽霊を本当に信じていない人間はどちらでもいいという態度を取る。強く否定する人間は、その時点で幽霊がいるという前提を信じてしまっているようなものだ。
ホラー作家の平山夢明先生がそう書いていた。

母の振るった包丁で頭蓋に空いた穴に漫画本の紙を詰めてから幽霊が見えるようになった、という奇怪で救いがないのに何処かユーモラスな始まりは、乾いた語り口にじわりと情と湿度が滲むホラーに繋がっていく。

霊感がある語り手ならではの叙述トリックが数々挟まれ、ミステリとしても面白く、ホラー要素も堅実。
それだけでは終わらない、ぽろりと語られたやるせなくいじましいほどの本心の切なさが胸に迫る、男性の一人称小説という特性を活かしたとても良質な作品でした。

もっともっと読みたいと思いつつ、この短さだからいいのだと自分を納得させています。

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