15 皆へ恩返し

 見知った顔に驚いた私は、思わず声を上げてしまった。

 声を上げた私をトムソン君とリオラルド様が視線を向けてくる。


「……アリエル!? なんでここにっ!?」

「アリエル様、この子を知っているのかい?」

「あ……えっと……はい! ……リオラルド様、少し私に任せて貰ってもいいでしょうか?」

「……わかった。だが、逃げ出さないように包囲させてもらうよ」

「えぇ、構いません」


 リオラルド様はトムソン君の拘束を解放する。

 騎士隊の方達は、私とトムソン君を取り囲む形になり、私はすぐさま傷だらけのトムソン君に駆け寄る。


「トムソン君、一体なんでこんなことをしたの?」

「……ふん、皆の為さ」


 トムソン君は顔を背けながら答える。


「皆って……どういう事?」


 私がスラム街にいた時は、貧しいながらも人から物を奪ったりはしていなかったはずだ。

 俯いたトムソン君は語りだす。


「……お前が去っていった後、俺達の元へミゲルってやつが指揮をとっている騎士隊が現れてスラム街から立ち退きを強いられたんだよ。行き場所を失った俺達はチリジリになっちまった」

「そんなっ!? ……パロムおばさんやナーシャちゃんは!?」


 ミゲルって……確か以前にスラム街の皆を皆殺しにした張本人だ。


「ミゲル隊長が……なぜ」


 背後で話を聞いていたポールも元々いた騎士隊の隊長の名前に反応する。

 私の問いかけにトムソン君は答える。


「今は俺と一緒に別の場所に移り住んでいるが……どうせ、また追い出されるだろうな。……俺達はもう人から奪うこれぐらいしか生きていく方法がないんだよ!」


 私は皆が殺されていない事にホッと胸を撫でおろす。

 だが、トムソン君達の現状はあまり良いものではなく、トムソン君はいままで溜まった感情を吐き出す。


「トムソン君……私に任せてもらるかしら。私が公爵家の当主になってトムソン君達の居場所をまた作り出して見せるわ」

「……そういえばお前、確か公爵家に引き取られていたんだったな」

「えぇ、だから今回お店から取っちゃったものはちゃんと持ち主に返して、謝りましょう?」

「……あぁ、わかったよ」


 納得をしてくれたトムソン君に周りの騎士隊も近づいてくる。


「話は聞かせてもらったよ。我らは王国直属の近衛騎士隊だが、そのミゲルという男は私も聞いた事がある。公爵家専属の騎士隊の隊長でとても野心に満ちた男で我らも危険視していた男だ」


 リオラルド様は腕を組みながら複雑な表情を浮かべる。

 そして傍にいたポールも俯きながら語りだす。


「……私も元々はミゲル隊長が率いる騎士隊にいたんです。あの騎士隊はミダデス公爵の命令を第一として行動する騎士隊でしたから、荒っぽい行動も黙認されているんです。……なので、あまり私には合わない騎士隊だったと思います」


 そう答えるポールにリオラルド様は語り掛ける。


「……ポール君は元々公爵騎士隊に所属していたんだね。今は違うのかい?」

「はい、今はアリエルお嬢様の専属騎士として行動を共にしております」

「……そうだったのか。アリエル様がポール君をその騎士隊から引き抜いたんだね」


 状況を理解したリオラルド様は、トムソン君に視線を向ける。


「それではトムソン君、まずは盗んだ商品を返して謝る事から始めようか」

「……わかったよ」


 それからは素直になったトムソン君は盗んだ盗品を店主に返して謝った。


「リオラルド様、申し訳ありませんが、ちょっとトムソン君達の事で別行動をしてもいいでしょうか?」

「気にしないでくれ。後で詳しく教えてくれてもいいかな?」

「わかりました」


 私はリオラルド様含めた騎士隊に断りをいれた後、私とポールはトムソン君達が住んでいる場所へと案内してもらった。




 トムソン君に案内された場所は、お世辞にも良い環境とは言えなかった。

 雑草は生えて大きな橋の下で日が遮断されていてジメジメしている。


「こんな場所しかなかったのさ」

「……っ! ナーシャちゃん」


 私は、壁にもたれ掛かってうずくまっているナーシャちゃんに気付き声を上げる。

 すると、私の声に反応したナーシャちゃんが顔を上げる。


「……えっ! アリエルちゃん!?」

「大丈夫!? 何か酷い事されなかった?」


 私が駆け寄ると、ナーシャちゃんは目に涙を浮かべながら俯く。


「……急に居場所が奪われて、お母さんとお父さんとも離れ離れになっちゃった……はは、ごめんね。アリエルちゃんには心配させたくなかったんだけど、思い出したら涙が出てきちゃった」

「……ナーシャちゃん。ポルンは一緒じゃないなかったの?」


 だが、ナーシャちゃんは顔を左右に振り、悲しそうな表情を浮かべる。

 すると、背後から声がかけられる。


「……えっ!? アリエル? アリエルなのかい?」


 振り向くと、そこにはパロムおばさんが荷物を抱えて帰ってきていたところだった。


「パロムおばさん!」


 私はすぐさまパロムおばさんに近寄り抱きしめる。


「アリエルっ!? 何でここに?」

「……トムソン君に事情を聞いてここにきたの。……ごめんなさい。私がいない間に、こんなことになっていた事に気が付かなかったなんて」

「……いいのよ。またこうしてアリエルに会えたからね」


 私はパロムおばさんから体を離す


「パロムおばさん……もう少しだけ待っててね。私が離れ離れになった人たちをもっといい場所で生活していけるように頑張るから」

「アリエル? 一体何を……?」


 私はパロムおばさんに微笑みかけた後、後ろに待機していたポールに視線を向ける。


「ポール、すぐに宿舎に戻ってレイモンドに報告よ――公爵家直属の騎士隊……いや、義父の好き勝手にさせないってね」

「畏まりました! アリエルお嬢様!」


 私は私をここまで育ててくれたパロムおばさんや、共に育ってきた幼馴染に対して恩返しをするべく立ち上がるのだった。

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