16 二人を国外追放

 近衛騎士隊の宿舎に戻った後、リオラルド様とレイモンドに事情を説明して公爵家の当主になる旨を説明する。


「……なるほど。確かに以前からミダデス公爵の行動には目を見張るものがあったのは事実です。ですが、当主となると国王の承認が必要になりますよ?」


 レイモンドが顎に手を添えながら答える。


「私達の近衛騎士隊は国王直属でもあるからね。私からも国王に謁見の場を用意して頂くように進言してみよう」

「ありがとうございます。リオラルド様」


 こうして私は、二度目の国王のいる宮殿へと向かう事になった。




 王国に到着し、私達は以前と同じような玉座の間に通される。


「国王様、お忙しい中お時間を頂きありがとうございます」


 リオラルド様がスフィンおじさんにむかってお辞儀をする。


「うむ、日々の騎士隊での警備ご苦労だな。それで報告にあった例の公爵家の令嬢は――」


 スフィンおじさんはそう言いながら私に視線を向けてくる。


「初めまして、私はアリエル・ミダデスと申します。私は三歳の頃に一度現在の公爵家当主である義父から捨てられ、多くの時間を街の片隅にあるスラム街で過ごしていました――」


 それから私は公爵家の領地内で義父が行ってきた悪政や、義父がお母様を殺した事等、知りえるすべての事をスフィンおじさんに共有する。


「――もう義父に私とお母様の公爵家の地位を好き勝手に使わせたくありません。公爵家の当主としての承認をお願いしたく、本日はお時間を頂いた次第でございます」


 私は深々と頭を下げる。


 ――シーンッ

 私が話終えると、辺りは静まり返る。


「……そうであったか、苦労をかけたな。ミダデス公爵からは子供だったアリエル嬢が姿を消して消息を絶ったと報告を受けていたのだが、そのような事になっていたとはな。……また、ミダデス公爵の悪評は数多く、近隣貴族からも様々な非難の声が上がっていたところなのだ」


 スフィンおじさんは以前と同様に私の身を案じてくれているのが伝わってきた。

 そして、頷いた後にスフィンおじさんは話始める。


「……わかった、公爵家の当主は本日からアリエル・ミダデスである事を承認する。存分にはげむのだ!」


 無事公爵家当主としての承認を頂けたのだが、私は問題の義父の処遇について確認する。


「ありがとうございます。そこで義父の今後の処遇なのですが、この国に残したままではまた別の悪事に手を染めてしまう可能性があります」


 少しスフィンおじさんは考えた後、話し出す。


「では、それを防ぐ為にも義父とソフィア諸共国外追放に処す。対処は私の指揮する近衛騎士隊に委任する。迅速に行動に移すのだ!」

「はっ! 畏まりました!」


 スフィンおじさんは、リオラルド様に命じると、リオラルド様は元気よく返事を返す。

 その後、やはりスフィンおじさんから呼び出しがあり、いろいろ素顔での対談を済ませた後、私達は近衛騎士隊と共に公爵家へ向かった。




◇◇◇




 公爵家に到着してすぐさま、近衛騎士隊は公爵家に入る。


 ――バンッ!

 大広間の扉を開けると中には義父とソフィアは話をしている最中だった。


「スフィン国王陛下のご命令でお前達を拘束させて貰う!」


 すぐに席を立つ義父とソフィア。


「な、なんだ一体!」

「そ、そうよ。なんなのよ!」

「問答無用!」


 リオラルド様率いる近衛騎士隊は瞬く間に二人を包囲し、縛り付ける。


「私達をどうするつもりだ! 私は公爵家の当主なのだぞ!」


 戯言をほざく義父に私は見下ろしながら伝える。


「公爵家の当主は私よ。国王陛下がお決めになった事で、もう貴方ではないわ。……さようなら二人とも。もう会う事はないでしょう」


 何か言い返そうとしていたけれど、口も塞がれてしまいもう話す事もできないようだ。

 二人の表情が歪んでいる事は分かるが、もう会う事がない相手を気にする事はなかった。


「アリエル様、それではこれからこの者達を国外に連行していきます」

「お願い致します」


 私が返答すると、迅速な近衛騎士隊は義父とスフィンを連れて公爵家から去っていった。


「……あっという間でしたね。アリエルお嬢様」


 傍にいたポールが唖然とした表情で呟く。


「そうね。さ、私達も皆の元へ急ぐわよ。すぐに安全な場所を用意しなきゃ」


 それから私は、パロムおばさん達の元へ急ぎ、バラバラになった家族たちを探しだす協力をすることになった。




◇◇◇




 そして、必死の捜索を続けて、なんとか離れ離れになった家族を見つけ出し、安全な仮説住宅を提供した。

 これで皆は安全に家族と共に暮らしていけるだろう。


 そして、他にも義父が今まで領地で行ってきた悪政による被害を受けている者を知る為に、民の声をもらうべく至る所に投書箱を設置した。

 私は自室で寄せられた多くの投書を読み漁り、切りのいいところで一呼吸を置く。


「……ふぅ……義父って本当に最低な人だったのね」


 私は手に持つ投書を見ながら呟く。


 ――コンコンッ

 すると、扉がノックされる。


「……開いているわ」


 ――ガチャッ

 扉が開くとレイモンドがトレイにティーカップとデザートを用意してくれていた。


「アリエルお嬢様、お疲れ様です」

「ありがとう、気が利くのね」


 レイモンドがテーブルに暖かい紅茶とデザートを置く。


「ありがとう、頂くわ」


 ――ズズッ

 暖かい飲み物を体内に入れる。


「……もう義父達はいないけど、いままで義父がしてきたしわ寄せが酷いわね」

「これは街に投書箱に寄せられたモノですか? 多いですね……あまり、根を詰めると体に悪いですよ?」


 レイモンドは私の体を気にしてくれる。


「ありがとう。でも、もうちょっとだけ頑張るわ。すぐにこの投書をまとめて行動に移したいもの」

「……えぇ、それでは失礼致します」


 それからも私は少しずつ公爵家の領地を立て直していこうと寄せられた投書に視線を戻すのだった。

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