14 苦しむ領土の人々

戦いを終えた後――


「もう、早く家に帰って体を洗い流したいですわ! 御免あそばせ!」


 ――と言いだし、ため息交じりなレイモンドはメイド一行にソフィアを任せて馬車で早々と公爵家に送り返していった。

 レイモンドは私が残るので私とポールと共にその場に残り、農地区域で休憩拠点を作り近衛騎士隊達と一晩を明かした。




 朝を迎えた後、私達は退避していた農民の方達を呼び寄せる事になった。

 だが、畑は数多くの魔物に踏み荒らされ、土が乾き荒れ果てている現状を見た農民は悲しみの表情を浮かべる。


「……あぁ……畑が荒れておる……これじゃ、作物はもう……これから私達はどうやって生きて行けばいいんじゃ」


 多くの農民が打ちひしがれながら絶望の表情を浮かべていた。

 私は農民たちは公爵家……義父から多くの資金を搾取され続け、生活全般が困窮している事を農民たちから聞いていた。


(……私に何かできないかしら)


 このままだと、農民たちは飢え死にしてしまうだろう。

 私も乾いた土を手で掴みながら思考を巡らす。


「……私、農業の事はよくわからないのだけれど、この土を元気にしてあげればいいのよね?」

「そうなのじゃが……お嬢さん、そんな事できるのかの?」

「……えぇ、ちょっと待っててね」


 私は荒れ果てた広大な農地に向かって両手を向け――


『クリエイト・キュアウォーター』

 

 ――両手から大量の浄化の水を辺り一帯に降り注がせる。

 私の魔法により、乾いた土は徐々に潤いを取り戻していく。


「「「「おおおぉぉぉぉ」」」」


 その光景を眺めていた農民からは歓喜の声が鳴り響く。


「な、なんと……こんな奇跡を目の当たりにできるとは……」


 農民は潤いを取り戻した土を掴み、感動しながら呟いていた。


「魔物に汚染されていた毒素も取り払っておいたから……後は貴方達に任せるわ」

「……あぁ……ありがとうございます聖女様! ……あ、あの、貴方様のお名前は?」

「私? ……私はアリエル・ミダデスよ」

「……ミダデス……公爵家の御令嬢でしたか。公爵家にも素晴らしい方はいらっしゃったのですね」


 やはり、公爵家の悪評はどの場所でも変わらないようだった。

 目の前で苦しんでいるのは、ほんの一部で……他にもあの義父から虐げられている者達は数多くいるはずだ。


(……過去の私のような……悲しい思いをする人を少しでも減らしたい)


 そんな事を心に抱いた私はポールとレイモンドに視線を向ける。


「決めたわ! 私、この領土を義父の手から守りたい! 二人とも……協力してくれるかしら」

「はい! 私はどこまでもお供致します!」


 ポールは瞬時に返事を返してくる。


「……ふふ、畏まりました。ミダデス公爵には私から伝えておきましょう」


 レイモンドも笑みを浮かべて快諾してくれる。

 私は一連の流れを見ていた近衛騎士隊の方達に顔を向ける。


「あの……貴方達騎士隊の方達ってこの領土を巡回しているのよね?」

「はい。そうなりますね」


 先頭に立っていたリオラルド様が健やかな表情で答える。


「……その集団に私も入れてくれないかしら?」

「我らの騎士隊に……ですか? ……それはもう、アリエル様の力は皆も見ておりますし、異論はないでしょう! どうだろう、皆!」


 リオラルド様が皆の意見を求めるが、異論を唱える者は一人もいなかった。

 むしろ、喜んでいる人が多いぐらいだった。


「……見ての通りですよアリエル様。私ももちろん歓迎致します!」

「ありがとうございます。よろしくお願い致しますわ」


 こうして私は近衛騎士隊の一員として、義父が治めている領土を守る一人になるのだった。




◇◇◇




 近衛騎士隊の宿舎に案内された私は部屋を用意して貰い、レイモンドが手配してくれた馬車を使って公爵家から衣服などを移動し終えて部屋の整理をしていた。

 ポールとレイモンドも同様に宿舎に住まうようになり、それぞれ部屋を用意してもらったらしい。


 もう義父はここにはいないので、ポールと同部屋にする必要もないからだ。

 ――というのも、最近ポールを見たら謎の胸の高鳴りを感じてしまうのもあるので、少し避けているのも少しある。


「ふんふん~♪」


 それはさておき、私はとても上機嫌で鼻歌交じりで部屋の整理をしていた。

 なぜなら、あの居心地の悪い公爵家から抜け出すことが出来たからだ。

 それに――


 ――コンコンッ

 扉からノックの音が鳴り響く。


「アリエル様、部屋の整理は落ち着いたかな?」


 扉の向こうからはリオラルド様の声が鳴り響く。

 そう……リオラルド様がいる宿舎に住めるようになったからだ!!


「はい! お陰様で、良い部屋も用意してくださってとても嬉しいです!」


 リオラルド様とは以前、共に過ごしていた時もとてもお忙しい方だと覚えておりますが、近衛騎士隊にいたとは思いませんでした。


「それはよかった。何か必要なものがあれば言ってくれるかな。用意できるものは何でも用意するからね」

「畏まりました! 心遣いありがとうございます」


 私が元気よく返事を返すと、リオラルド様の足音が遠ざかっていく。

 すると、聞き慣れた足音が部屋に近づいてくる。


「アリエルお嬢様、お勉強のお時間です」

「えぇ、開いているわ。レイモンド」


 そして相変わらず、レイモンドの教育は継続している。

 あまり学習をしてこなかったので、知らない事を知れるのも単純に楽しいし、教え上手のレイモンドの授業は学んでいてとても楽しさを感じるほどだ。


 ――私は、今までで一番恵まれた環境を手に入れる事が出来た喜びに全身が震えるほど嬉しさを感じるのだった。




◇◇◇




 そんなある日、私とポールは周辺警備と称して騎士隊の一員になり、見覚えのある街の片隅に来ていた。

 すると――


「おい! 待ちやがれ!!」


 ――突然、露店の店主から罵声が鳴り響き、顔が見えない程の被り物をした人物が物凄い速さで物品を持って駆け出す。


「まてぇ!」


 すぐさま強盗だと理解したリオラルド様は賊を追いかける。


「ポール! 行くわよ!」

「はい、アリエルお嬢様!」


 私達もリオラルド様に続いて賊を追いかける。

 しばらく追いかけた後、リオラルド様が賊を捕まえる。


「こらッ! 追い詰めたぞ!」」

「グウゥッ!」


 賊が被っていた被り物をリオラルド様がはぎ取って素顔をさらす。

 すると――


「……トムソン君っ!?」


 ――そこには過去にスラム街で生活を共にしていた幼馴染がいた。

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