08 スフィン国王陛下の元へ
それから私達は国王がいる宮殿へ向かう前に、公爵家に仕えている者を全て集めて状況の説明をレイモンドがしてくれた。
「――という事がありまして、今ここにいらっしゃるアリエルお嬢様が今後、公爵家の当主として役割を担っていくようになりました。まだ、国王からの承認を頂いてはいないので確定事項ではありませんが、
――ざわざわっ
レイモンドの説明により、数多くのメイド達がざわつく。
だが、いずれのメイドも表情は明るく喜んでいるようだった。
(……もしかして義父はメイド達にも手を出していたんじゃ……いや、考え過ぎかな)
また前回経験しているが、この公爵家ではソフィアの言葉が絶対でありソフィアからの命令はメイド達は歯向かう事は出来ず、数多くの束縛を受けていたのも覚えている。
それほど、日頃から義父とソフィアが公爵家で行っていた事がいかに最悪なモノだったのかがメイド達の反応で垣間見える。
因果応報というやつだ、あとで絶対に処刑しよう。
「今まで義父とソフィアがどのように公爵家で生活をしてきたのかは分かりません。ですが、もし国王からの承認が下りればこの家の当主は私になり、皆さんにはよりよい生活を送って頂けるように尽力致します。……もし承認がおりた際には皆さんにはお世話になりますが、どうぞよろしくお願い致します」
私が話終えると、傍にいたポールが拍手をし始めると、それがキッカケでメイド達からも一つ、二つと拍手が鳴り始め、次第に大きな拍手音が大広間に
私が公爵家にいなかった時間は長かったが、少なくともあの二人が好き放題にしていた公爵家を変えていく事は出来ると確信した。
◇◇◇
それから義父とソフィアを牢獄から絶対に出さないようにメイド達にお願いした後、私達は馬車に乗りレイモンドの案内でポールと共に国王のいるクトルフ宮殿へと向かっていた。
「……アリエルお嬢様、緊張しすぎです。もう少し肩の力を抜いてください」
対面に座るレイモンドは先ほどからソワソワしている私を見て苦笑しながら言葉をかけてくる。
「えぇ……でも、そうは言ってもさすがに緊張してしまうわ。衣装はこのドレスで良いのかしら、もっと化粧を濃くしたほうが……」
「いえ、問題ありません。とてもお似合いですよアリエルお嬢様。他所の令嬢からも引けを取らないでしょう」
「……あ、ありがとうございます」
真顔で恥ずかしい事を言ってくる人だ。
「はい! レイモンドさんのおっしゃる通りです。とても素敵ですよ。アリエルお嬢様!」
隣に座る私を励ますポールの手も微かに震えている。
「……ポールも緊張しているじゃないですか」
「はは……そ、そうはいっても、国王の元に出向くなんて……早々経験する事じゃないですよ」
「お二人とも、国王であるスフィン国王陛下はとてもお優しい方なので、そんなに気負いしなくて問題ありませんよ。それも、実際にお会いしたらわかります」
「……そうですわね。まだお会いしてもおりませんのに、固まっていては失礼ですからね。ポール、頑張りましょう」
「は、はい! アリエルお嬢様!」
レイモンドにより、
しばらくするとクトルフ宮殿に到着した。
非常に大きな建物で隅々まで掃除が行き届いているのが一目で分かる程、素敵な建物だった。
私達は外観を楽しみながら宮殿内に入り、国王が待っている玉座の間へ通された。
玉座の間に到着すると、一番奥にある玉座には黒髭を手で摩りながら私達を見つめる威厳のある
(……み、見るからに
玉座から私達に伸びる道の左右には偉そうな人が列を成して私達に視線を向けてきている。
その注目の中、私達は玉座に座る人の前まで進む。
「ただいま戻りました、スフィン国王陛下。本日はお時間を頂きありがとうございます」
「……久しいなレイモンド」
「はい。スフィン国王陛下が危惧していたミダデス公爵なのですが――」
それからレイモンドはスフィン国王陛下に義父達が行ってきた事や、マリアお母様を殺したことなどすべてを共有する。
「――そして、今ここにいらっしゃるアリエルお嬢様ですが、本日より公爵家の当主として承認を頂きたく参った次第です」
「……うむ。後ろにいる者が例の御令嬢という事なのだな」
スフィン国王陛下は私に視線を向けてくる。
私の体が強張るのを感じる。
「はい。アリエルお嬢様に
多くの方達が注目をする中、これほど悠長に話が出来るレイモンドを素直に感心していると――
「アリエルお嬢様からも一言お願い致します」
急に話を振られて一気に現実に戻される。
「……は、はい! お、お初にお目にかかりますわ。私はただいま紹介に預かりましたアリエル・ミダデスと申します。本日はお時間を頂きありがとうございます」
「うむ」
「え、っと、スフィン国王陛下。私は一度義父から捨てられ長い時間公爵家から離れてスラム街で暮らしていましたが……お母様が残した家でお母様を殺めて今まで権力を
頭の中で考えをめぐらした結果、私が思っている事を国王陛下にぶつける。
――シーンッ
私の心臓の音が聞こえるのではないかと心配するほど玉座の間が静まり返る。
「……そうであったか、苦労をかけたな。ミダデス公爵からは子供だったアリエル嬢が姿を消して消息を絶ったと報告を受けていたのだが、そのような事になっていたとはな。……また、ミダデス公爵の悪評は数多く、近隣貴族からも様々な非難の声が上がっていたところなのだ」
スフィン国王陛下は私の身を案じてくれているのが伝わってきた。
そして、頷いた後にスフィン国王陛下は話始める。
「……わかった、公爵家の当主は本日からアリエル・ミダデスである事を承認する。存分に
すると、力強い言葉でスフィン国王陛下は即断した。
「……へ?」
あまりにも早い決断に私は気の抜けた声がでてしまう。
だが、冷静なレイモンドは声を上げる。
「ありがとうございます。私も監視として公爵家に潜入しておりましたが、これからはアリエルお嬢様と共に公爵家の繁栄に尽力したいと考えております」
「あぁ、引き続き頼むレイモンド」
そして、ずっと固まっていたポールも勇気を振り絞るように声を上げる。
「わ、私もアリエルお嬢様の専属の騎士としてお役に立ちたいと思います!!」
「うむ、お主もアリエル嬢を守ってやってくれ。……それでは話は以上だ。レイモンド、後で私の個室にアリエル嬢を連れてきてもらえるかな?」
「……畏まりました」
こうして私は、公爵家での当主としての立場を勝ち取る事ができた。
放心状態のまま、レイモンドに連れられて玉座の間を出た私とポールは少し中庭で休憩をした後、先ほどスフィン国王陛下がおっしゃっていた通り、スフィン国王陛下の個室へとレイモンドが案内してくれる。
――コンコンッ
レイモンドが扉をノックすると中から先ほど玉座の間で話をしていたスフィン国王陛下の声が聞こえた。
「レイモンドです。スフィン国王陛下、いらっしゃいますか?」
「……開いているから入ってくると良い」
――ガチャッ
扉を開けたレイモンドは室内に入り、私とポールも後に続く。
「失礼致します。スフィン国王――」
レイモンドが言葉を話終える前に、スフィン国王陛下は私に勢いよく駆け寄ってくる。
「本当にマリアそっくりに成長したものだな! 一瞬、マリアなのかと見間違えてしまったぞ!」
そこには先ほど玉座の間で威厳を放っていた国王陛下とは思えない程、笑顔で話しかけてくるおじさんがいた。
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