09 社交界での再開

 扉を閉めて、私は改めでスフィン国王陛下に対して言葉を発する。


「え、えっと……」


 ……だが、咄嗟に言葉が出ずにどもってしまう。


「……ご安心ください、アリエルお嬢様。スフィン国王陛下は皆の前では威厳のある風貌をしていますが、実際は見ての通りのお方ですよ」

「あぁ……混乱させてすまないな。皆の前ではあのような振る舞いでないと示しがつかないのだ。……限られた者の前でしか、この顔は見せてはいない」


 なんとなく国王陛下の事情も理解できたので、先ほど思った疑問をぶつけてみる。


「そ、そうなのですね。……それで、先ほどお母様をご存じであるような事をおっしゃっていましたが、ご存じでいらっしゃるんですか?」


 私が恐る恐る質問すると、ニコっと笑顔を浮かべて国王陛下は答える。


「もちろんさ。マリアは私の妹だからな」

「そ、そうだったのですか!?」


 先ほどは咄嗟の事で、おじさんだと思ってしまったが……目の前の国王陛下は本当に私のおじさんに当たる人物だった。


「あぁ、マリアが若い時の見た目とそっくりで皆の前で動揺を抑えるのが大変だったぞ。ガハハッ」


 話終えると盛大に笑うスフィンおじさんの笑顔は微かにお母様の面影があるような気がしてくる。

 すると、先ほどレイモンドがノックをした扉から再びノック音が響く。


「父上、もう用事は終わったのですか?」


 扉の向こうから透き通るような声の男性の声が聞こえる。


「あぁ、ギルバートか。丁度いい、入ってきてくれないか?」

「……え? 分かりました父上」


 ――ガチャッ

 扉を開けた向こうには、金髪碧眼へきがんで顔がとても整った男性がパーティに着るような服で現れた。


「あ、あのスフィン国王陛下、この方は?」


 私は姿を現した男性からスフィンおじさんに視線を移して尋ねる。


「あぁ、こいつは私の息子だよ」

「……そ、そうなのですね!」


 姿を現した男性はとても優しそうな見た目で安心感を抱く。


「……? 父上、この方達は?」

「今日は謁見する用事があると言っていただろう? ここにいるのはその者達だ。……ほれ、ギルバード。お前の従妹にあたる公爵家令嬢のアリエルだ」


 スフィンおじさんがそう言うと、ギルバートという男性は私に笑顔を向けてくる


「……これは急に申し訳ない。初めまして、私はギルバード・クトルフと申します」

「は、はい!! こちらこそ、初めまして……私はアリエル・ミダデスと申します!」


 私達はお互いに挨拶を交わした後、ギルバートはレイモンドに視線を移す。


「あ! レイモンドもいるじゃないか、久しぶりだな!」

「ふふ、ギルバードもお元気そうでなによりです」


 レイモンドを見た途端、口調が砕けたギルバート。


(二人は古い仲なのだろうか?)


 ……というか、先ほどからポールが状況についてこれずに固まったままだ……今はそっとしておこう。

 やり取りを交わす中、スフィンおじさんはギルバートに向かって尋ねる。


「それでギルバート、何か用だったのではないか?」

「あ、はい。父上にも社交界の場に足を運んで頂きたいのです。……もう謁見の用事も終わったのですよね?」

「……あぁ、そんな事を話していたな。社交界のような人の多い場に行くと皆の相手をするのが大変なのだ……」

「はぁ……しっかりしてくださいよ父上。それも国王としての責務です」

「わかっておる。……そうだ。丁度いいアリエル。お前も社交界に参加してみないか?」

「……えっ!?」


 急なお誘いに驚いてしまう。


「……いいのですか?」

「あぁ……いいだろうギルバート?」

「えぇ、構いませんよ。アリエル嬢も是非ご参加ください」


 こうして私は今開かれている社交界に参加する事になった。




 大きな会場に案内された私は全てに圧倒される。


「……広いし、人がいっぱい」


 会場には数多くの着飾った人たちが集まっており、各々で談笑を繰り広げていた。

 ふいにそんな言葉を呟いていると、傍で肩身を狭くしているポールに気付く。


「あの、アリエルお嬢様……私、完全に場違いなんですが」

「……大丈夫よ、私の傍から離れないで」

「わ、分かりました!」


 私とポールがヒソヒソ話をしていると、レイモンドが声を上げる。


「それではアリエルお嬢様、私は入り口付近で待機しているので社交界をお楽しみください」

「え……えぇわかったわ」


 すまし顔で離脱をするレイモンドを横目に私は人が多い会場に視線を戻す。

 私達を会場に誘導してくれたギルバートに気付き、手を振って迎えてくる人がいた。


「あ、ギルバート様! 戻ってきましたか」

「……えっ!?」


 手を振っていたその者はなんと……リオラルド様だった。


「リオラルド様!」

「……ん? アリエル嬢、リオラルドの事を知っているのかい?」

「あ……いえ、見かけた事がある程度です」


 つい口に出てしまい、急に顔が熱くなるのを感じる。


「……アリエルお嬢様?」


 私の反応にポールも不思議そうな表情を浮かべる。

 すると、スフィンおじさんがギルバートに声を掛ける。


「……さて、ギルバート。私は皆に挨拶をしてくる。各々楽しむと良い」


 スフィンおじさんは、先ほど玉座の間で見たような風貌に変わっていた。


「はい、父上!」


 ギルバートの返事を聞いたスフィンおじさんは、人が集まる方へと歩いていった。

 リオラルド様は通り過ぎるスフィンおじさんに頭を下げながら私達に近づいてくる。


「ギルバート様、この方達は?」

「あぁ、父上の謁見で来ていたものです。こちらが公爵家のアリエル嬢……私の従妹に当たる御令嬢で、こちらの方はアリエル嬢の御付きの者だ」

「は、初めまして、私はアリエル・ミダデスと申します!!」


 思いっきり頭を下げて熱くなっている顔を隠す。

 私がお辞儀をしていると、ポールも私に続く。


「私はアリエルお嬢様の専属騎士をさせて頂いているポール・ドルフレッドと申します。よろしくお願いします!」

「これはこれは、お二人ともご丁寧にありがとうございます。私はリオラルド・グランベルズと申します。どうぞお見知りおきください」


 お互いに自己紹介を終えた後、私は顔を上げて俯きながらギルバードに尋ねる。


「あの、お二人はどういったご関係ですか?」

「あぁ、リオラルドとは昔からの友達なんだ。……それにしても、リオラルド。私に様はつけなくていいと言っているのだがな」

「いやいやギルバート様……そうは言うが、このような人が大勢いる場所で国の王太子に向かって敬称を付けないのはいろいろ問題になるんだ」


 リオラルド様は周りを見渡しながら答える。

 微かに私達四人は注目を浴びているような気がする。


「……確かに、こういった場では気を付けた方がいいかもしれないね」


 周りの視線に気づいたギルバートも察したような表情を浮かべる。

 ともかく私は、またリオラルド様に会えた事が心の底から嬉しく思い、社交界の場ではあっという間に時間が過ぎてしまった。




 解散の時間も間もなく近づいていたところ、仲良くなれたリオラルド様から話しかけれる。


「……でも、公爵家の話は父上からいろいろ耳に入っていたけど、思っていたのとは全然違ったようだ」


 おそらく、義父達の悪評に対しての事だと察した私は、私がこれまで経験してきた事を共有することにした。


「……えぇ、お二人には聞いて貰いたい話があります。実は――」


 それから私はギルバートとリオラルド様に私が公爵家で受けて来た事を全て共有する。


「――それで今回、公爵家の当主として承認を頂く為にスフィン国王陛下の元へ来たのです」

「……そうだったのか」


 ギルバートは私の過去を知り、言葉を失っていた。


「……酷いじゃないか。でも、アリエル嬢。公爵家に戻った後、二人をどうするつもりなんだい?」


 リオラルド様も同様に私の事を気遣ってくれたが、今公爵家で牢獄に入れている二人について尋ねてくる。


「……相応の処罰を与えようとは思っていますが、まだ具体的には決めかねています」

「そうか……でも、今後は何かあったら気軽に相談してくれないか。私で良かったら相談に乗るよ」


 リオラルド様は前回と変わらぬ優しさを私に向けてくれる。


「……ありがとうございます。リオラルド様」

「私も従妹であるアリエル嬢が悲しむのは辛い。私も相談に乗れる事があれば何でもするといい」


 ギルバートも優しい声を掛けてくる。

 二人に出会えてよかった。


「二人ともありがとうございます。ですが、公爵家当主となったからにはすぐに人に頼ることなく、まずは自分で乗り越えていきたいと考えております。……なので、どうしてもご協力を頂きたい時は頼ってもよろしいでしょうか?」


 二人は私の言葉を聞いて頷く。


「……アリエル様はお強いのですね」


 リオラルド様は笑顔を向けながら呟く。

 私に強さをくれた人の笑顔に私は心が温かくなる。


「リオラルド様、近いうちにリオラルド様の家にお邪魔させて貰ってもいいですか?」

「それはもう、いつでも歓迎するよ」


 私はリオラルド様と約束を交わした。


(……やった。また、リオラルド様に会える!!)


 とてもフワフワした気持ちのまま社交界を終えた私は、リオラルド様やギルバートとのお別れを済ませて、馬車に乗って公爵家へと戻るのだった。




◇◇◇




 馬車に乗って公爵家に戻った後、少しメイド達の様子がおかしかった。

 だが、有頂天な私はそんな事に気が回らず、動き回った一日の疲れを取るようにベットに入る。


(……今日はいろいろあって疲れたな……あの二人の事は明日考えよう)


 そんな事を考えながら、私は眠りに落ちた。










 ――グサッ

 暗闇の中、以前に感じたことのあるような鋭利なモノで体を貫かれるような激痛が私の体を襲った。

 口には布で縛られており魔法が使えず、視界は暗く体を動かそうにも拘束されて動かす事ができない。


「……~っ!?」


 私はそのまま私は訳も分からず永遠の闇へと意識が落ちていくのだった――。

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